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東亜グラウト工業株式会社

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地震動に「抗う」のではなく「操る」

 

逆転の発想から生まれた
下水道の耐震化技術「マグマロック」

「ガラス切り」から着想された独自技術

ガラス切りが技術開発の着眼点に

 地震大国 日本において、社会インフラを守る技術は日々進化を遂げている。巨大なエネルギーに対し、構造物をどう守り抜くか。一般的には、構造そのものの強度を高めて地震動に「抗う(耐震)」、揺れを「吸収する(制震)」、建物と地盤を切り離して揺れを「抑える(免震)」といったアプローチが取られることが一般的とされてきた。

 しかし、下水道管路の更生・補修分野でトップランナーとして知られる東亜グラウト工業が開発した「マグマロック工法」がたどり着いた答えは、既存のどのカテゴリーにも当てはまらない。「力を操る」という、極めて斬新な発想であった。

  • 側方流動で左右に蛇行する路面(能登半島地震)
  • 液状化現象で大きく浮き上がったマンホール(能登半島地震)
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  • 側方流動で左右に蛇行する路面(能登半島地震)
  • 液状化現象で大きく浮き上がったマンホール(能登半島地震)

 この技術の根幹を成すアイデアは、開発者の意外な体験から着想を得ており、次のように語っている。「子どもの頃に見た、板ガラス屋の仕事がヒントになった。職人はダイヤモンドカッターでガラスに一本の筋を入れる。たったそれだけで、ガラスは驚くほど簡単かつ綺麗に切断できる。当時の印象的な記憶を思い出し、その原理を生かせないかと試したのが始まりだった」。

 地震発生時、地盤の液状化現象に伴ってマンホールが浮上したり、地盤の歪みで下水道管路全体に上下のたるみが生じたりする。マンホールと下水道管の接続部(管口)には、その結果、構造物の挙動の違いによる強烈な「せん断力」が作用するため、無防備な状態の管路は破断してしまう事例が多く報告されてきた。

 そこで開発陣は、「あえて弱点部位を作っておく」という、構造物を頑丈にする一般的な定義とは正反対の発想を取り入れた。これは、ダイヤモンドカッターの筋のように切込みを意図的に入れることで、力が集中する箇所をあらかじめ設定する。そして、巨大なエネルギーが加わった際にその切込み部分が動く(破損をコントロールする)ことで、致命的となる管路全体の破壊を防ぐのである。

 「New Guide Joint(誘導目地)」の頭文字をとった「NGJ」というこの機構は、「あえて弱点を作り、地震動の力を操る」という、柔軟かつ逆転の発想から生まれた独自技術である。


統計が指摘する「待ったなし」の備え

 なぜ、これほどまでに高度な耐震技術が求められるのか。それは日本が置かれた過酷な地理的条件と、統計が示す紛れもない現実がある。

 気象庁が定める震度階級で最も大きい「震度7」は、ここ30年の間に7回も発生している。記憶に新しい令和6年能登半島地震では、能登6市町を中心に下水道管路が壊滅的な被害を受けた。下水道の供用停止は、トイレや洗濯といった日常生活を直撃し、被災者の暮らしの再建に大きな足枷となった。これは周知の事実である。

 過去を振り返れば、平成19年の新潟県中越沖地震でも、県内で約48kmもの下水道管路が被災し、破損した管路への土砂流入が道路陥没を引き起こすなど、都市機能に深刻な打撃を与えた。

 こうした被害は、決して特定の地域だけの問題ではない。日本の陸域や周辺には2000を超える活断層が存在し、政府の地震調査委員会は南海トラフ地震の発生確率を「30年以内に60~90%」と予測している。

 統計的に見れば、およそ10年以内に一度は、日本のいずれかの地域で震度7クラスの地震が発生しているのが実態だ。もはや日本国内に「地震空白地帯」は存在せず、いつどこで巨大地震が起きてもおかしくない状況下にある。だからこそ、被災してから直すのではなく、被災しても機能を維持できる「事前の備え」が急務となっているのである。


止水から耐震へ 技術の飛躍的進化

 こうした日本の過酷な環境下で、下水道管路の耐震技術はどのように進化してきたのか。その歴史をひもとくと、マグマロック工法のルーツが見えてくる。

マグマロックの雛形技術であるスナップロック工法

 マグマロック工法の開発の歴史は、平成元年にまで遡る。当時、下水道業界では将来的な管路ストックの老朽化を見据え、各社が競うように改築・修繕技術の開発を進めていた。そうした時代背景の中、下水道管路の維持管理上、長きにわたって雨天時の浸入水対策が課題となっていた。その解決策の一つとして、東亜グラウト工業らはカナダのリンクパイプ社が保有していた「スナップロック工法」を国内に導入した。

下水道管に耐震機能を付与する画期的工法

 スナップロック工法は、円筒形に加工したステンレス製補修板と口輪状のゴムスリーブ、この二つの構成部材を既設管の内面に圧着させることで、下水道管内への地下水(雨水)の浸入を抑えるという技術だ。当時主流だったグラウト材(薬液)を注入する方式とは異なり、金属とゴムで物理的に止水するこの技術は、画期的なものとして注目を集めた。

 その後、平成16年の新潟県中越地震における下水道管路被害を契機として、スナップロック工法の耐震化への応用開発が進められた。本技術で培った基本構成部材、施工法、止水メカニズムを継承し、耐震機能を付加した発展形として、平成19年に「マグマロック工法」は実用化された。現場のニーズと災害の教訓から生まれた技術である。


現場で選ばれる「誘導目地」の施工優位性

 マグマロック工法が現場で支持される理由は、その独自の耐震メカニズムだけではない。効率的でスムーズな施工とコストパフォーマンスも大きな要因だ。

継手部連続施工の例

 通常、管路の耐震化を図る場合、1スパン(マンホール間の管路全体)をすべて改良・更生する方法があるが、これには多大な時間とコストがかかる。対して、マグマロック工法はマンホールと管路の接続部という弱点のみに集中して施工する。そのため、1スパン中の下水道管路のつなぎ目(管きょ継手部)にピンポイントで連続的に設置することで、安価かつ効率的に耐震化を図ることができる。

 また、マンホール管口部の耐震対策においては、特にその施工優位性が際立っている。現場にはさまざまな条件下で設置されたマンホールが存在するが、中には管口部に防護コンクリート(空伏せ)が施されているケースがある。他工法では施工が困難なこのようなケースにおいても、マグマロック(mini・NGJ)は適用可能な数少ない技術であり、その価値を発揮している。

 現在、マグマロック関連工法全体で年間3000~4000カ所の施工実績があるが、その大半を管口耐震対策である「マグマロック工法NGJ」と「マグマロック工法mini・NGJ」が占めている。今年度は国の耐震対策予算やメニューが拡充されたことが追い風となり、さらなる実績の上積みが期待される。


国による中長期的な耐震化戦略

急所施設のイメージ(国土交通省資料より)

 能登半島地震の教訓は、国の政策構築にも大きな影響を与えた。下水道施設が機能を失うと、システム全体が麻痺してしまうため、国は下水道を最重要の「急所施設」という新たな概念で位置付けた。

 これを受け、国は令和7年度の予算において、新たに個別補助制度(下水道基幹施設耐震化事業)を創設。さらに、従来からの地震対策事業を大幅に拡充し、下水道施設の耐震化を強力に推し進める姿勢を鮮明にしている。特に、地震対策事業における採択地域要件が撤廃されたことは、都市部だけでなく地方部も含めた全国的な需要拡大の大きな追い風となっている。

 また「第1次国土強靭化実施中期計画」、そして現在大詰めを迎えている「第6次社会資本整備重点計画」など国の計画においても、「施設の耐震化」が大きな柱の一つとして明確に位置付けられた。これは、下水道施設の耐震化が一過性のブームではなく、中長期的な国家事業として今後も継続的に取り組まれていくことを意味している。


世界へ広げる日本の防災・減災技術

 視点を世界に向けると、さらに新たな可能性が見えてくる。世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割を日本が占めている。しかし、環太平洋火山帯の広範な地域が、日本と同様の地震リスクに晒されたまま放置されているとも言える。ここに、日本技術の活路がある。

大地震に見舞われるも流下機能を確保(能登半島地震追跡調査)

 内閣府が公表した1900年以降の巨大地震ランキング(マグニチュード順)を見ると、日本で発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)が世界4位にランクインしている。上位を占めるのはチリ、アラスカ、インドネシアなど、プレート外縁部に位置する国々に集中している。

 日本の下水道技術の多くは、昭和後期から平成にかけて欧州から導入されたものがベースとなっている。マグマロック工法の雛形となった技術もカナダ由来だが、欧州地域は地震リスクとはほぼ無縁であり、オリジナル技術には「耐震」という発想が希薄である。そのため世界進出を考えた際に、日本の耐震化技術は圧倒的な優位性が際立つのである。

 東亜グラウト工業は、将来の海外展開を見据え、東南アジア地域においてすでに橋頭堡を確保している。仕掛け方次第では、未だ対策が進んでいない世界の地震多発地帯において、大きな市場を取り込める可能性を秘めている。

 【関連記事:グループ初の海外事業立ち上げ 新たな成長戦略がスタート


命と尊厳を守るインフラとして

 技術の普及や市場の拡大は重要だが、その根本にある目的を見失ってはならない。それは、人々の当たり前の日常を守り抜くことだ。

 地震が発生した際、たとえ電気・ガス・水道が早期に復旧したとしても、生活排水や汚水を流す下水道が被災して使えなければ、被災者は自宅での生活を断念せざるを得ない。トイレが使えない、流せないという事態は、公衆衛生上の問題であると同時に、人間の尊厳にも関わる深刻な問題である。災害時だからこそ、最低限の衛生的な生活環境、すなわち「日常」を一日も早く取り戻すことが何よりも求められる。

 東亜グラウト工業がマグマロック工法の拡販に注力するのは、単に事業拡大のためではない。「地震災害に備える」という観点から、いつか来るその時に、一人でも多くの人の生活を守り抜くためだ。ガラス切りから生まれた小さな発想は今、国境を越え、そして未来の災害から人々の尊厳を守る大きな力となろうとしている。

 【関連情報】マグマロック工法:製品詳細(東亜グラウト工業 公式サイトへ)


記者の視点

 国の施策の中心に社会インフラの強靭化、レジリエンス確保が鎮座している。「弾力、回復力」などの意味を持ち、物理学や心理学用語、最近では企業経営においても用いられるようになった「レジリエンス」という概念は、リスクショックへの耐性、その後の回復力という「強さ×しなやかさ」を表現するものだ。強さだけに頼らない、弾力的、しなやかに応力を吸収することで下水道の機能維持を図るマグマロックは、まさにレジリエンスな設計思想を取り入れた技術ともいえる。

 記憶に新しい令和6年能登半島地震では、地震動により下水道管きょとマンホールの接続部や、下水処理場手前の下水道管きょが地震動により破断し、下水が流せない事態に直面した。このことを教訓に、破損した際に社会的影響の大きい施設を「急所」施設と位置付け、現在耐震化が急がれている。

 一方、耐震化とは異なる文脈だが、八潮市の道路陥没事故を受け設置された検討会で「力学的弱点箇所」という考え方が新たに示された。マンホールと管きょの接続部(構造変化点)で地震発生時等に反力・支持力が均等に作用せず、破損等が発生し、道路陥没につながる可能性があるとして、耐震化・可とう化の必要性が指摘された。こうした事業環境を背景に今、最も必要とされる技術に違いない。 

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