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東亜グラウト工業株式会社

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 業界をリードする働き方改革

~本音座談会から見えた 東亜グラウト工業の今~

 社員一人ひとりが生き生きと活躍できる職場づくり、働き方改革の実践は建設業界において今、一番ホットな話題だ。

 今回、東亜グラウト工業が設置した働き方改革委員会のコアメンバーが一堂に集まり、業界内でも先駆けて取り組んできた同社の働き方改革について、その背景、想いについて具体的なエピソードを交えながら、座談会形式で自由に語り合ってもらった。

 座談会の模様は同社のYouTubeチャンネルにて配信されるほか、「水Tech」では座談会を通じて見えてきた、同社ならではの取組みをまとめた。


変わりゆく労働市場

 少子高齢化や人口減少社会という言葉は、現下の日本の社会情勢を表す際に当たり前のように使い古された枕詞となっている。実際には、65歳以上の高齢者の割合が21%を超えた社会を指す超高齢社会は2007年、人口減少社会は2011年から本格的に突入したといわれ、少子化に至っては遡ること1970年代(諸説あり)から声高に叫ばれてきた。

 日本の状況を表す大枠の情報だが、実際の就活市場はどのような状況となっているのか。販促事業大手リクルートの研究機関であるリクルートワークス研究所発表の大卒求人倍率調査(2025年版)によれば、2025年3月卒の求人倍率は1.75とリーマンショック前後を除けば、年々緩やかに右肩上がり基調が見られる。中でも建設業については、同倍率9.35と他の業種と比較しても高い傾向がここ数年見られ、前年度に至っては13.74倍という高水準に達している。14人分の求人枠にわずか1人しか応募がないという超過需要が生じている。

高齢化の推移と将来推計(情報通信白書令和4年度版より)

 内閣府公表の資料(令和4年版高齢社会白書)による生産年齢人口(15~64歳)の統計をみると、1995年をピークに減少局面に転じており、2050年時点で2021年比29.2%減少すると見込まれている。

 日本の社会・経済の根底にあった終身雇用神話の崩壊がまことしやかにささやかれる昨今、キャリア形成の名の下に転職市場は活況の様相を呈している。自身の雇用待遇や生活環境のさらなる向上を目指し、転職活動へと取り組む労働者も少なくはない。「全体傾向としてゆるやかに労働者数(生産年齢人口)が低下」する中で、「限られた人的資源で一層の生産性向上」「既存社員の転職活動による人材流出の防止」といった対応策が企業に求められている。

 いずれにせよ、国全体の傾向として進む少子高齢化や人口減少社会に対し、一企業として意識すべきは、新卒・中途問わず「働きやすい、働き続けたい、長く働くことのできる」環境を提供できるかに尽きる。そして企業はそのワークライフをいかに魅力として対外発信し、呼び水にできるかに懸かっている。そのことは、雇用者(企業経営側)から被雇用者・就職希望者へとトップダウン形式で享受されることもあるが、今を働く社員も当事者意識をもって主体的に知恵を出し合い、制度設計を考えていくなどボトムアップの発想も重要だ。

 建設業では今年4月から働き方改革関連法が適用され、先行していた他業種同様に労働環境問題の改善などに取り組む必要がある。建設業に従事する企業の多くがまさに今、この課題に頭を悩ませている。

 建設業を取り巻く事業環境が厳しさを増す中、東亜グラウト工業ではこうした諸課題の解決に向け、ここ数年、働き方改革を切り口にさまざまな施策を講じてきた。


働き方改革委員会を設置

 東亜グラウト工業は目指す企業像として「ビッグカンパニーよりグッドカンパニー」を掲げている。同社が提唱するグッドカンパニーとはお客さま満足度、従業員満足度が共に高い会社のこと。従業員満足度が高い会社とは、従業員一人ひとりが働きがいを持って自己実現を後押しできる会社であること。自己実現の機会や働きがいを創出するためには、まずは従来からの慣習や働き方を変えていくことから始まるというのが理念だ。

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 そうした目的で、同社では、2017年から「働き方改革委員会」を設置。社長が委員長を務め、社内各部署から自薦他薦問わず代表者を委員として選出。月に1回の頻度で会合を開き、そこで各部署の社員から寄せられた課題について議論を行い、解決策について方向性を見出した上で委員長に答申。正式決定すれば新たな社内制度として導入される。

 1年ごとにメンバーを入れ替えながら継続して取り組んでおり、今年で7期目を迎える。年ごとに深堀するテーマは異なるため、その都度、テーマに高い関心を寄せる社員らが集まり議論する。総務部の南洞氏(当時)、横塚氏の二人も長年委員会運営をサポートしてきた。

 「働き方はトップ(会社側)から一方的に押しつけられるものではなく、従業員側からも提言できる権利がある」が基本的な考え。そのため、働く社員が実際にどのような意見を持っているのか把握するために、全従業員へ働き方に関する課題アンケートを発出。当初200件もの意見が寄せられた。意見の中身は切実なものから普段の何気ない気付きまでさまざま。「喫煙所の数を減らしてほしい」「自動販売機を設置してほしい」といったものや、導入希望と導入反対の両方の意見が寄せられ、どちら側の意見に寄せればいいか判断に悩むようなものも。寄せられた意見のうち6割程度は、委員会で図らずとも半年ほどのうちにそれぞれ対応を講じた。例えば「日差しが強く窓際席が熱い」という要望には日差しを遮る遮光シートを設置したり等、些細な工夫で改善を図れるものが大半だった。

 一方、「本社に食堂が欲しい」「仮眠室や女性向けの休憩所が欲しい」といった経営陣も交えて会社としての方針を決定する必要があるものについては、委員会で議論の上、対応策を協議した。

 フロア全体で集中管理していたエアコンについて、フロア北側・南側で寒暖差が著しいことを受け、系統別に管理することが要望として挙がっていたが、こちらについては複数年に跨いで改修工事を実施した。費用面でも即座に対応が困難な要望についても、決して社員の声を無視することなく、一つずつ丁寧な対応を心掛けた。


残業時間は半分以下に

 働き方改革の実践において焦点となるのが長時間労働の是正、労働生産性の向上だ。

 同社では管路、地盤改良・構造物メンテナンス、斜面防災と大きく三つの建設・メンテナンス事業を展開しているが、現場担当ともなると、昼間は現場対応や役所対応、夕方に職場に戻り報告書等の書類作成業務という流れが付き物。現場によっては夜間工事を余儀なくされるため、夜は現場、日中は役所対応と書類作成業務と変則的な働き方も仕事柄発生することもある。繁忙期ともなると土日も出勤するという光景も一昔前は決して珍しいことではなかったようだ。

 働き方改革委員会立ち上げ当初の時点で、月の残業時間は一人当たり平均32時間、一部では最大100時間超の社員も散見され、是正・改善が急がれた。一方で、一部の社員は「残業時間の削減=所得の減少」を懸念する声もあった。そうした懸念に対し、ベースアップという形で還元することでまず社員らの不安を解消し、効率化により残業手当金が減っても、年収が下がらないようにした。

 システム面からもアプローチを試みた。例えば総務では、給与・人事管理システムを刷新したことで、各社員の勤務実態をオンライン上で可視化。また同様に勤怠管理システムも導入したことで、管理職が部下社員の労働状況をつぶさに把握できるようになるなど、労務管理を効率的に行うことができる環境を整備した。

 このほか、工事写真の整理ツールや経費精算システムの導入など事務作業の簡素化につながる各種ICTツールを積極導入することで総合的に生産性向上に努めてきた。エリアを跨いだ定例会議や営業報告などは、オンライン会議システムも活用している。労務管理上ネックとなっていた現場担当者の書類作成業務は業務支援チームを設けるなど人員構成や業務分担の最適化を心掛けた。人事評価システムについても、従来までの定性的な判断に基づくものを定量的な評価指標を取り入れる形で見直すとともに、昇格試験の導入や号俸制度の刷新により社員の業績貢献や勤務姿勢・意欲が適正に評価される仕組みづくりを進めることで、モチベーションの向上につながるよう配慮した。

 こうした組織体制の刷新や新システムの導入効果の発現に加え、ノー残業デーや有給休暇取得奨励日導入などの新たな施策の浸透も相まって、2023年時点で平均残業時間は14時間と大幅に削減。それでも目標達成に向けては道半ばとのことで、昨今、社会に浸透しつつあるDX化の潮流を受け、ICTツールの活用をさらに進めることで、一層の生産性の向上につなげていきたい考えだという。


きめ細やかな社員ケアも

 平均残業時間の削減のみならず、社員のケアについても各事業特有の労働環境・業務実態を把握・精査した上で十二分に取り組む必要がある。例えば、構造物メンテナンスの部署の中でも地下鉄関連業務の担当者は、終電後の作業となるため夜間業務が求められる。そこで同社では、部門・部署を跨いだジョブローテーション制度の導入、構造物メンテナンスの部署における橋梁補修・ドローン調査など昼間業務比率の拡大を意識することで、個々の社員の業務負担の平準化へと取り組んでいる。

 同社では各社員の生活環境や家庭事情を加味した上で多様な働き方を実現するため、ワークライフバランスを意識した施策もここ数年、積極的に取り入れてきている。産前産後・育児休暇制度はもちろんのこと、時差出勤や在宅勤務制度の導入などを率先して整備。利用率についても、2023年実績では男性社員の育児休暇取得率でみれば、80%と高い水準を保持している。制度が決して形骸化せず、実効性を持てるように職場環境を整えている証左でもある。

SMBCグループが認定する「働き方改革グロース企業」に6年連続認定

 このほかにも社員向け保養施設の拡充、外部産業医の増員でメンタルサポートカウンセリングの拡充、インフルエンザ予防接種の家族補助や産前産後育児相談窓口の提携など、社員向け福利厚生サービスの導入を進めている。今後も働き方改革委員会で議論していきながら、さらなる拡充が期待される。同社は従来にとらわれない新たなチャレンジにも意欲的な姿勢を見せる。

 長時間労働の改善・削減、多様な働き方の導入、福利厚生の充実、人事評価制度の見直し、そしてトップコミットメントによるそれらの推進など、さまざまな働き方改革の取組み成果として、SMBCグループが認定する「働き方改革グロース企業」に6年連続選ばれるなど、手応えを掴み始めている。

 「認定されることが目的ではなく、毎年示されるレポートに、項目別に達成状況や要改善点が評価されており、この外部からの指摘をもとに、さらに良くしていくために何をすればいいか、新たな課題設定にもつながっている」と述べる。


安心して学べる場の提供を

 現下の労働市場を俯瞰した際、どの企業でもベテラン社員の高齢化が差し迫った経営リスクとして取り沙汰されている。建設業に従事する企業は特に頭を悩ませる問題だ。定年延長制度の導入する一方で、中長期的な抜本対策を考える上で安定的な雇用確保はもとより、現有社員の育成が目下の関心事である。

 従来はいわば、独学や自己投資にて身に着けていた知識・スキルも、企業として次世代の働き方や人材育成を意識していく中でリスキリングを積極奨励する流れが形成されつつあるが、同社でも若手から中堅・ベテラン問わずリスキリングを推進している。業務上必須となる基本的なスキルアップ研修はもちろんのこと、ガバナンスを意識したコンプライアンス研修などをeラーニングにて学習できる環境を整えている。専門技能として必須となる各種土木資格の取得に際しては、ベテラン社員による勉強会の開催などを通じてバックアップする仕組みも整えるなど、若手社員を育成する環境にも万全を期している。

  • ハーネスを使った実技訓練(2022年安全道場)
  • 同社安全部職員から説明を受ける様子(2022年安全道場)
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  • ハーネスを使った実技訓練(2022年安全道場)
  • 同社安全部職員から説明を受ける様子(2022年安全道場)

 また、同社が創業60周年記念事業の一環で新設した浦安技術センターでは、実技訓練が可能なトレーニングエリアを設けている。技術立脚の企業として、若手社員に対しては「現場でいろはを学ぶ」も重視する一方で、現場に送り出す前の基礎習熟にも投資を厭わない姿勢が表れている。こうした研修会や勉強会で研さんを積む社員のモチベーションアップを支えるための人事考課制度も独自に規定している。

 技能習得支援の一方で、建設業に従事する上では労災リスクは他業種以上に付き物。安全教育にも十分な手当を講じる必要があるが、同社ではユニークな取組みとして「安全道場」を企画している。建設現場で特に留意すべき事故の代表例として、巻き込まれ事故や酸欠事故など9種類のメニューについて身近に迫る危険を体感し、安全意識を醸成するもので、全国各地で開催している。


今よりも、より良い会社へ

 同社の山口乃理夫社長は「チャレンジを奨励する文化」について常々言っているが、それは管路、地盤改良・構造物メンテナンス、そして斜面防災とあらゆる分野でトップランナー企業として立脚する所以となっているのではないか。

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 「良い技術があれば、すぐに新たなものを取り入れる」という企業姿勢を貫いてきた同社。近年では海外市場へ進出として、シンガポール国で下水道管路の管更生事業を展開する企業の経営権を取得、グループ会社化するなど、これまでの同社が描いてきたビジネス展開とはまた異なる新基軸の挑戦を始めている。

 その取組みの中では現地のグループ会社に社員を役員として派遣している。これまでも国内のグループ会社に社員を出向させることはあったが、海外という新たなフロンティアでの挑戦に、担当役員は「将来的に外国人材が日本国内で活躍する時代も訪れる。その架け橋となれれば」と意気込みを語る。

 これまでの取組みを総括し、ベテラン社員に話を伺うと、「今と昔で大きく働き方が変わったが、私が入社した90年代と比べると断然、今が働きやすい」と力強く語るとともに、「現世代の若い子にとっては、今の東亜グラウト工業がスタンダードの姿。今後も若手世代の意見を取り入れながら、『こうしたい。こうなればいいのに』が実現し続けられれば、より良い会社になっていくと思う」と目を細める。

 

「働き方改革」座談会

記者の視点

 建設業に働き方改革関連法が適用され、2カ月余りが経過した。5年という猶予・準備期間はあったものの、満を持してこの4月を迎えたという企業は果たしてどれほどいるのだろうか。

 多くの場合、「日没時間切れの見切り発車、出たとこ勝負だ」というのが本音ではないだろうか。新たな規制に対し、工夫の余地はさまざまあるものの、現実的に目の前の仕事が減るわけではない中で、限られた時間で同じだけの労働成果を挙げなくてはならない。週休2日制になるだけでも相当堪える企業は多いと思う。「これまでが無理のある仕事量だった。新たな規制に合わせた事業量に整え、直そう」と割り切れれば良いが、それは売上にも響く。働く社員にとっては「給料が減るのでは」と戦々恐々ということもあるだろう。

 労務単価の見直しによる発注サイドからの手当も当然あるが、単純な対価の話だけではなく、経営者視点では労働力不足に陥ることがより一層深刻な問題だ。建設業界を回りこの手の話題を見聞きする中では明るく捉えることの企業、経営者はほぼ居なかった。明確な答えを出せた企業も。

 そうした状況だからこそ、東亜グラウト工業の真摯な取組みが際立って映るような気がする。この一年、業界内でも明暗が分かれるとも思う。その答えが早く知りたい。

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Profile

 東亜グラウト工業株式会社は1958年(昭和33年)に設立されました。創立当初は、独自のグラウト工法で「地盤改良分野」を中心に国土建設の一翼を担いました。

 その後、社会資本整備の変遷に呼応する形で、時代のニーズに適応する技術を磨き上げ、また時には獲得することで業容拡大を図り、現在では「地盤改良事業」「斜面防災事業」「管路事業」の3つの柱を築くに至っています。

 「安心・安全な国民生活の実現」に向け、これから我々が直面する課題は大きく二つあると考えます。

 一つは平成25年に施行された国土強靭化基本法に示される防災・減災の街づくり、一つは高度経済成長期に集中整備されたインフラの老朽化対策です。特にインフラメンテナンスは限られた予算の中で、どう効率的かつ効果的に行っていくかが重要です。

 当社はこれらの課題に対し、新技術、新工法での貢献を目指すとともに、官民連携の新しいビジネス創出にもチャレンジしていきたいと思います。当社の今後にどうぞご期待ください。

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