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東亜グラウト工業株式会社

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水道DXで存在感

AI活用が導く漏水調査・更新計画の最適化

 水道分野での業容拡大を目指す中で水道DXに活路を見出し、海外からAI技術の導入を進めてきた東亜グラウト工業。その成果が今、まさに開花しようとしている。同社の水道事業の最前線を見つめてきた結城啓治氏に、同社が見据えるビジネスの将来像、そこから紡がれる水道事業の未来の姿について話を聞いた。


水道事業部の新規立ち上げ

 東亜グラウト工業は、2040年時点で目指す姿として地域創生・再生の一翼を担う「まちのお医者さん」というパーパスを掲げている。存続が危ぶまれる地方都市の持続や活性化に貢献する企業像を理想とし、まちづくり・まちおこしに関わるあらゆる領域での活躍を最終目標に定めたものだ。

 このパーパス実現のファーストステップとして、まずは「インフラメンテナンス綜合ソリューション企業」と称し、社会インフラを広く担える体制を敷くことを目標に、守備範囲の拡大を精力的に進めてきた。

 【関連記事:100年企業への挑戦 ブレない「志」で なぜ今、パーパス経営が求められるのか

 中でも、急成長を遂げているのが水道分野だ。同社における水道ビジネスは、2010年ごろに海外から技術導入し、社内プロジェクトとして発足した「アイスピグ管内洗浄工法」と管路調査技術「スマートボール工法」の普及展開から始まっていく。特にアイスピグは、初期段階こそ下水道管路(圧送管)でスタートを切ったものの、ここ数年は水道、さらには工業用水分野で洗管実績を堅実に伸ばしている。

 同社は、アイスピグを軸に水道企業としての認知を高めてきた一方で、令和の時代に入って以降、バリューチェーンビジネスの確立に焦点を定め、大胆な舵取りを進めている。その構想として、同社は独自に「トータル・メディカル・システム(TMS)」を提唱し、計画・設計・施工・維持管理に至るサイクルを自社およびグループリソースで完結・提供する体制を指向している。そして、このTMSの体現に向けて水道分野が最も近い位置にある。

  • 日本水道新聞(2024年4月1日号4面)
  • 日本水道新聞(2024年12月9日号4面)
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  • 日本水道新聞(2024年4月1日号4面)
  • 日本水道新聞(2024年12月9日号4面)

 2022年にはイスラエルのベンチャー企業ユーティリス社とパートナーシップ契約を締結、衛星による漏水検知技術である「アステラ・リカバー」の国内正規代理店となった。2024年2月には、スエズグループの米国オプティマティクス社が開発したAI活用ソフトウェア「アセットアドバンス」に関する日本国内優先代理店契約を締結し、水道管路の劣化予測・更新計画策定支援サービスを展開していく方針を固めた。

 この二つの技術に加え、GISデータクレンジングを手がける応用技術社、そして管路ストックの状態監視・評価ツールを保有するオートデスク社の2社が参画・協力する形で、AI・GISで管路を一貫にて管理する世界初の実証試験プロジェクト(日本水道新聞 2024年12月9日号4面掲載)がまさに今、久留米市で進行している。

 このように日々、水道分野でインパクトを与える挑戦を続ける東亜グラウト工業。そしてついに今年1月、水道事業部を立ち上げた。同社がどうしてここまで水道管路の管理ビジネスにこだわり、TMSの確立を目指す必要があるのか。なぜDXとAIの社会実装を進める必要があるのか。

 水道事業が直面する危機的状況とそれを実際に見てきた担当者の熱意が起点となっている。


水道クライシス

 テレビ報道、週刊誌、ネットコラムで『水道クライシス』という言葉を見聞きしたことがあるのではないだろうか。住民生活に支障を来すような重大な水道管路のトラブルが社会問題として取り上げられる頻度が、肌感覚として増えてきている。

橋体の中央部が崩落した六十谷水管橋(2021年10月3日)

 今、話題の中心にある八潮市で発生した道路陥没事故は下水道管路に起因すると見られているが、下水道管路だけの問題にとどまらず水道管路に対しても一般報道や国民の関心は一層高まっており、2月12日には堺市で発生した水道管の破損事故が大々的に報道されていた。

 水道管路の事故で近年、社会問題として最も大きく取り上げられたのは2021年に発生した和歌山市の六十谷水管橋落下事故であろう。その要因の一つとなる水道管の老朽化について、全国に目を向けると年間約2万件もの水道管の漏水が発生している。その中には復旧が長期化するインシデントも発生しており、これらは水道管の老朽化が喫緊の問題として迫っていることの警鐘でもある。

 また統計データにおいても、全国74万kmに達する水道管路の4分の1弱が耐用年数40年を超え、今後10年のうちには整備ピーク期のストックもその年数を迎えることから老朽管の割合は加速度的に増加すると見込まれている。


進まない老朽化対策

総務省自治財政局公営企業経営室・準公営企業室「水道事業及び下水道事業の現状と課題」より

 老朽化対策の必要性が高まる一方で、管路の更新は思うように進んでいない。また全ての水道管路を更新するには、百数十年サイクルが必要との試算も出されている。水道管路の更新事業の量はほぼ横ばいだが、分母である管路総延長が毎年増えているため、更新率でみると年々低下傾向である。

 同社アイスピグ部の結城啓治部長は「水道管の更新が思うように進まない背景には更新予算の確保(カネの問題)に苦慮していることや、担い手である民間事業者側のマンパワー不足(人の問題)が主要因として挙げられるが、そもそも『更新計画の策定が思うように進まない』『どこから対策を講じるべきか定まっていない』などの事情も大きい」と指摘する。

 管路台帳のデータベース上で布設年度から古い水道管がどれだけあるかの「量」を把握できても、実際に不具合が顕在化する管路を特定し、把握するのは困難な点がネックとなる。つまり既存の水道管路が、現在どのような状態であるかという「質」の観点が抜け落ちているのが更新計画を立てにくい要因となっている。


管路データの「質」の欠如

 水道管に設定される老朽化の目安40年は法定耐用年数の数値であり、経済的な価値で表された数字である。実際に水道管路がどれだけ使用できるのかを指す物理的な耐用年数は、布設環境・布設方法・管種によってさまざまだ。

水道管に求められる機能・性能として、例えば耐震性能が不足している管(基幹管路)は経年数の大小によらず即座の更新が推奨される。耐震化という一点においては、布設年度や台帳上の情報を照会さえすれば水道管の布設替えや更新計画をいくぶんか立てやすい。

 一方で老朽化の対策においては、「経年数=更新優先度の高い管」が必ずしも言えず、「経済的耐用年数を迎える前なのに管に錆や亀裂が入った」「布設後70年を迎えるが何も問題は生じていない」など、不具合の顕在化が一律のタイミングでないことが悩みどころだ。

 水道管路に付随する施設の情報以外にも、過去の漏水事故の履歴や点検・修理の履歴も「質」という意味では重要なリソースだ。しかし仮に情報の蓄積があっても、多くの場合で、定量的に分析・判断を行う仕組みの構築に至っていない。長年にわたって維持管理に従事し、現場を隈なく理解する熟練職員であれば、「この管路はそろそろ危うい」「ここは事故が起きた際に重大な断水につながってしまう」など急所の把握や緊急度の判断が行えるかもしれない。しかしそうした経験知による属人的なノウハウは継承が困難なものであり、世代を経るごとに失われてしまう。

 このように「質」の情報が欠如した状態で、かつ限られた予算で的確な更新計画を立案することはほぼできない。そのため総合的にリスクを可視化して、把握・解析を行うプロセスの構築が、老朽化対策の本質的な課題として水道事業体に突き付けられている。


漏水調査の非効率性

 水道管の健全率、つまり前段で触れた「質」を測る上で重要な指標の一つとなるのが「漏水」の発生有無になる。老朽化および水道管の不具合は漏水事故という形で表に現れるが、全国では年間2万件ほど発生していると言われ、最悪のケースとして断水や減水が引き起こされる可能性がある。また漏水を放置すれば水道事業の有収率(配水量に対する水道料金の対象となった水量の割合)の低下を招き、住民サービスの面だけではなく水道経営にも影響を及ぼすため、早急な対策が求められている。

 例えば報道で取り上げられるような、地上に噴き上げるほど可視化された事象であればすぐさま対処されるだろう。しかし漏水事故の多くは、地中で静かに進行し、直接的な事象が確認できないため発見が困難となる。規模や正確な位置の特定ができないほど微小な漏水であるケースが多いことも漏水対策の難易度に拍車をかけている。

 音聴法といった基本手法や周囲の騒音に影響を受けないトレーサーガス式調査、さらにはセンサー・解析技術を組み合わせたロガ型相関調査など、非開削で漏水箇所を特定する手法は数々考案されている。しかし、自治体の規模によっては数百、数千kmに及ぶ水道管路網を全て現地調査するには費用と期間がともに膨れ上がってしまうため非現実的だ。そのため肝心なのは「まずどの路線やエリアから漏水調査を行うか」を明確にするという点で、効率的かつ効果的に調査を行うスクリーニング手法が求められていた。


東亜グラウト工業とデジタル技術の活用

 これら水道事業の課題に対して、同社は扱う技術とともに解決策を提示する。

アステラ・リカバーの仕組み

 その代表的な例が衛星による漏水検知技術「アステラ・リカバー」だ。同技術は、衛星画像データとAI解析を組み合わせ、面的に漏水疑い箇所(POI)を特定するもので、既に複数の自治体で導入が進んでいる。例えば、鳥栖市ではPOI調査に関する業務委託を通じて地下漏水の発見に大きな効果を発揮し、調査の効率化を実現した。また2023年には、ユーティリス社の世界各国の代理店の中で最も躍進したパートナーとして「ブレイクアウトアワード」を受賞し、国内での普及に向けた動きが加速している。

 このアステラ・リカバーと、先行して事業化を進めてきたアイスピグ管内洗浄工法を組み合わせることで、洗管区域の選定や計画的な管路の更新・維持管理の提案を行うことを当初の戦略として考えていた。ただ、効率的な漏水調査の手法の確立が見えてくる一方で、「更新計画」という本質的な課題が依然として残ったままであった。

 結城氏は「その時に、アイスピグで培われたスエズグループとのコネクションにより、同社傘下のオプティマティクス社を紹介されたことで新たな活路が開けた」と振り返る。「オプティマティクス社が保有するアセットアドバンスは、将来の水道管の劣化を予測し、コストとリスクが最適化された更新計画を導き出す技術で、劣化予測の精度を高めるには漏水履歴データが不可欠だった。一方で、アステラ・リカバーは人工衛星からの観測データを用いて水道管の状況(漏水)を面的に把握・評価し現地調査エリアを絞り込むことで効率的な漏水調査を実現する。二つの技術が合わさることのシナジーが見込めた」と強調する。

〝更新計画の最適化〟のイメージ

 そのソフトウェアによる管路更新計画の策定支援技術「アセットアドバンス」が強みとするAI解析・評価技術がもたらすインパクトは大きなものである。トレードオフの関係にあるコストとリスクについて、数千万、数億もの組み合わせからそれぞれが最小となる数パターンに絞り込んで、最適な更新計画を導き出すという。通常は人の手では成しえない領域の技がシステムとして提供されるのだ。また属人的なノウハウがシステム上で共有知識となり、技術継承の問題解決にもつながるという点もデジタル化がもたらす大きな価値であり、アセットアドバンスの導入を進める意義につながる。

 「水道管路マップの電子化、GIS(地理情報システム)を上手く使いこなすことで、流量解析、影響度評価、そして管路劣化予測などさまざまなソリューションの恩恵を受けられることを事業体の皆さまに知ってもらいたい。将来推計に基づく施設のダウン・アップサイジングの検討、可視化されたリスクに基づく最適な管路更新計画の立案などあらゆることがシステム化され、提供できるところまで来ている。そのためには事業体の皆さまとも意識を共有できれば」と結城氏は述べ、デジタル化の入口として「まずはGISデータの整備を進めること」の重要性を強調する。


水道DXの最前線で

 2024年11月に政府が開いたデジタル行財政改革会議において、石破茂首相が上下水道メンテナンスを合理化することの重要性を指摘し、具体的な施策の方向性の中にもAIや人工衛星などDX技術活用の促進による業務効率化が示された。2025年2月20日の会合においても再度強調するとともにその実装を大幅に前倒しにするよう指示するなど、東亜グラウト工業が見据えるビジョンは社会の目指すべき針路とも軌を一にする取組みといえる。

結城部長

 そして同社の取組みは、水道事業におけるデジタル化の価値を正しく事業体に発信し、デジタルリテラシーの定着を促す活動そのものに思える。水道管路ストックを的確に管理すること、その管理を標準・システム化することこそが水道事業の「人」「モノ」「カネ」問題解決への糸口であり、東亜グラウト工業が久留米市で進めている実証試験こそ集大成といえる。

 結城氏は、実証試験がもたらす価値とデジタル化の必要性について「管路GIS情報、AI管路劣化予測、衛星画像漏水検知、そしてAI更新計画といった技術を活用することで、これまで属人的な判断に依存していた水道管の維持管理を、よりデータドリブンなものへと進化させることが可能となる。水道事業体は老朽化リスクを可視化し、より適切な更新計画を策定することができるようになる」と述べつつ、「今後、こうした技術のさらなる進化と導入の拡大が、水道インフラの持続可能な維持管理において鍵を握ることになるだろう」と示唆した。デジタル技術の筆頭ともいえるAI活用についても、アステラ・リカバーやアセットアドバンスを通じ、本当の提供価値を正しく認知されることが期待される。

 このように、上下水道事業のDX化がキーワードとなる昨今、水道管路の計画的な維持管理や更新に新たなイノベーションがもたらされようとしており、その水平展開を待ち遠しく感じる。


記者の視点

 2025年1月1日付の組織改編により水道事業部を発足するなど、新体制で水道分野へさらに一歩踏む出す決意を固めた同社。アイスピグを起点に水道分野への進出を指向して15年の歳月が過ぎた。その当初から一貫して水道事業の開拓に向き合い続けてきた結城部長にとって、事業部への組織昇格は感慨深いものがあったようだ。
 同社が掲げる中間目標を達成する上で不可欠な5本柱、その4本目の柱が固まった。山口乃理夫社長が就任来、明示してきたビジョンの年次通りに物事は進み始めている。まさに今年がそのファーストステップとして、同社における「インフラメンテナンス綜合ソリューション企業」の元年と言えるのではないだろうか。

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Profile

 東亜グラウト工業株式会社は1958年(昭和33年)に設立されました。創立当初は、独自のグラウト工法で「地盤改良分野」を中心に国土建設の一翼を担いました。

 その後、社会資本整備の変遷に呼応する形で、時代のニーズに適応する技術を磨き上げ、また時には獲得することで業容拡大を図り、現在では「地盤改良事業」「斜面防災事業」「管路事業」の3つの柱を築くに至っています。

 「安心・安全な国民生活の実現」に向け、これから我々が直面する課題は大きく二つあると考えます。

 一つは平成25年に施行された国土強靭化基本法に示される防災・減災の街づくり、一つは高度経済成長期に集中整備されたインフラの老朽化対策です。特にインフラメンテナンスは限られた予算の中で、どう効率的かつ効果的に行っていくかが重要です。

 当社はこれらの課題に対し、新技術、新工法での貢献を目指すとともに、官民連携の新しいビジネス創出にもチャレンジしていきたいと思います。当社の今後にどうぞご期待ください。

Information

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