栄誉が裏付ける信頼の技術
日本下水道新聞 平成27年7月15日付
日本下水道新聞 平成27年7月29日付
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こうした経緯もあり、同社では平成20年代から実証試験を通じ事業化を模索。平成24年には、国土交通省の下水道革新的技術実証事業(BーDASHプロジェクト)に積水化学工業や大阪市らと共同で公募し、管内設置型下水熱回収システムに関する実証試験に着手した。同社は、ここで得られた知見をヒントに、管内下水熱利用の事業化への歩みを独自にも進めていった。海外から技術導入した「ヒートライナー工法」が徐々に表舞台へと姿を現していくこととなる。
ヒートライナー工法は、下水道管路内に採熱管を設置しつつ管内面をリニューアルするという更生管一体型下水熱回収技術で、更生管には同社が得意とする光硬化工法を活用するなど同社が持ち得る技術の粋を結集。自信を持って世に送り出した。平成24年の光硬化工法協会の席上において、同社創業者である故・大岡伸吉相談役は、既存の管路更生ビジネスの延長線として下水熱利用事業の可能性に言及していた。大岡相談役は「付加価値技術で競う時代が来る。今から新技術を確立し提案していきたい」と力強く語り、ここから事業化へ大きく加速していくこととなる。
平成25年には十日町市協力の下、保育施設の空調用熱源として下水熱利用に関する実証試験に着手。数年間にわたる試験の結果、採算性を含めた有用なデータが集まり始め、給湯、路面融雪などでもその導入効果を検証し、多用途展開の可能性が示されたことで引き合いが増え、その後、北海道、東北などの厳寒地域でも実証試験に取り組まれてきた。
平成27年7月には改正下水道法が施行され、新たに民間事業者による下水道管内への熱交換器の設置に関する規制緩和が施されたことで事業化への取組みが加速。同年のうちに改正法に基づく第一号案件として小諸市で下水熱利用事業が具体化し、その熱交換装置としてヒートライナー工法が正式採用されるに至った。その後、高山市においても相次ぎ受注するなど幸先の良いスタートを切っている。令和4年5月時点で北海道・東北・北陸・中部地方の11現場にて給湯・空調・ロードヒーティング熱源などの用途で下水熱利用事業を数々手掛けている。
こうしたユニークな研究開発の成果は、「ジャパン・レジリエンスアワード2016(優良賞)」「平成30年度環境賞(優良賞)」「第2回インフラメンテナンス大賞(技術開発部門優秀賞)」「平成30年度省エネ大賞(製品・ビジネスモデル部門中小企業庁長官賞)」「第3回エコプロアワード(優秀賞)」と、数々の受賞歴にその確かさが裏付けされている。
直近では、下水道本来の役割・機能を発展・拡張させ、環境貢献という新たな付加価値を持たせた点や、技術としての独創性が認められ、一般財団法人新エネルギー財団の令和3年度「新エネ大賞」にて「新エネルギー財団会長賞(導入活動部門)」を受賞している。
現下の社会環境を見渡せば、第一に脱炭素が志向されており、下水道インフラ分野においても各プロセスでCO2削減へのアプローチが求められているが、下水道管路ストックを最大限活用した脱炭素化貢献技術として、下水熱利用が再度脚光を浴びることも期待されるだろう。
また、下水道事業としてはこれまで接点の乏しかった電力事業者を巻き込む形でのビジネスモデル構築など、異分野とのマッチング・連携という面でも、下水熱利用事業を通じ下水道分野における新たな事業展開の道筋や可能性を示した同社の功労は大きい。
今後、下水熱利用事業をより広めていくためには、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例の制定、義務化や、都市計画上での位置付け等を担当する関連部局など行政内での横の連携も重要になる。また改築(更生)事業と一体的に進めていくことを考慮すれば、熱ポテンシャルマップだけでなく下水道管路の改築計画を予め熱需要家に向け積極的に公表していくなどの仕掛けも十分想定できる。
技術はある。その技術を社会へと広く実装していくためのこうした出口戦略を官民総出で知恵を出し合い、下水道分野以外の多様な関係者をも巻き込みながら作り上げていくことが求められていく。下水熱利用のフロントランナーとして、脱炭素化を追い風に、今一度新たな案件組成に注目が集まる。