日本水道新聞社 電子版ポータルサイト

日本水道新聞社 × 日本水道新聞社
×
東亜グラウト工業株式会社

Contact

インフラメンテナンス綜合ソリューション企業を目指して

報道から紐解く 

国土強靱化のパイオニア 挑戦の軌跡(後編)

管路事業40年の歴史

下水熱の可能性に着目

日本下水道新聞 平成23年9月7日付

 メンテナンス・リニューアル・耐震化と下水道管路分野で企業価値と存在感を高めてきた東亜グラウト工業。現業が軌道に乗る一方で、新規事業への種まきも欠かさない。その目玉の一つとして力を注いできたのが「下水熱利用」になる。

 地域や流入水の条件にもよるものの、一般的に下水道(下水熱)は年間を通じ平均水温が15度前後と安定しており、大気と比較し夏は冷たく、冬は温かい。また、年間を通じ、比較的安定した水量(熱量)が確保できるという利点がある。国土交通省の資料によると、約1800万世帯分、の冷暖房用熱源に相当する膨大な熱ポテンシャルを持つと推定されるなど、都市域に眠ったままの再生可能エネルギーとしてこの下水熱が注目されつつも、従来は処理場周辺部での熱供給にとどまっていた。

 この下水熱利用について、東亜グラウト工業では、欧州での先進事例を参考に下水道管路から熱を回収する手法に着目。都市の地下に張り巡らされた下水道管路から熱を回収し有効利用することができれば、熱供給を希望する事業者(熱需要家)とのマッチングの可能性が高まるなど、出口戦略の面から考えた際に実現の可能性が高いと判断した形だ。

 折しも、平成23年2月には都市再生特別措置法が改正され、その翌年には都市の低炭素化の促進に関する法律が施行されるなど、民間事業者が下水熱を活用しやすいよう規制緩和が図られたことが追い風となり、その機運が徐々に高まっていくこととなる。


栄誉が裏付ける信頼の技術

  • 画像
  • 画像
  • 日本下水道新聞 平成27年7月15日付
  • 日本下水道新聞 平成27年7月29日付

 こうした経緯もあり、同社では平成20年代から実証試験を通じ事業化を模索。平成24年には、国土交通省の下水道革新的技術実証事業(BーDASHプロジェクト)に積水化学工業や大阪市らと共同で公募し、管内設置型下水熱回収システムに関する実証試験に着手した。同社は、ここで得られた知見をヒントに、管内下水熱利用の事業化への歩みを独自にも進めていった。海外から技術導入した「ヒートライナー工法」が徐々に表舞台へと姿を現していくこととなる。

 ヒートライナー工法は、下水道管路内に採熱管を設置しつつ管内面をリニューアルするという更生管一体型下水熱回収技術で、更生管には同社が得意とする光硬化工法を活用するなど同社が持ち得る技術の粋を結集。自信を持って世に送り出した。平成24年の光硬化工法協会の席上において、同社創業者である故・大岡伸吉相談役は、既存の管路更生ビジネスの延長線として下水熱利用事業の可能性に言及していた。大岡相談役は「付加価値技術で競う時代が来る。今から新技術を確立し提案していきたい」と力強く語り、ここから事業化へ大きく加速していくこととなる。

 平成25年には十日町市協力の下、保育施設の空調用熱源として下水熱利用に関する実証試験に着手。数年間にわたる試験の結果、採算性を含めた有用なデータが集まり始め、給湯、路面融雪などでもその導入効果を検証し、多用途展開の可能性が示されたことで引き合いが増え、その後、北海道、東北などの厳寒地域でも実証試験に取り組まれてきた。

 平成27年7月には改正下水道法が施行され、新たに民間事業者による下水道管内への熱交換器の設置に関する規制緩和が施されたことで事業化への取組みが加速。同年のうちに改正法に基づく第一号案件として小諸市で下水熱利用事業が具体化し、その熱交換装置としてヒートライナー工法が正式採用されるに至った。その後、高山市においても相次ぎ受注するなど幸先の良いスタートを切っている。令和4年5月時点で北海道・東北・北陸・中部地方の11現場にて給湯・空調・ロードヒーティング熱源などの用途で下水熱利用事業を数々手掛けている。

日本下水道新聞 平成31年1月30日付

 こうしたユニークな研究開発の成果は、「ジャパン・レジリエンスアワード2016(優良賞)」「平成30年度環境賞(優良賞)」「第2回インフラメンテナンス大賞(技術開発部門優秀賞)」「平成30年度省エネ大賞(製品・ビジネスモデル部門中小企業庁長官賞)」「第3回エコプロアワード(優秀賞)」と、数々の受賞歴にその確かさが裏付けされている。

 直近では、下水道本来の役割・機能を発展・拡張させ、環境貢献という新たな付加価値を持たせた点や、技術としての独創性が認められ、一般財団法人新エネルギー財団の令和3年度「新エネ大賞」にて「新エネルギー財団会長賞(導入活動部門)」を受賞している。

 現下の社会環境を見渡せば、第一に脱炭素が志向されており、下水道インフラ分野においても各プロセスでCO2削減へのアプローチが求められているが、下水道管路ストックを最大限活用した脱炭素化貢献技術として、下水熱利用が再度脚光を浴びることも期待されるだろう。

 また、下水道事業としてはこれまで接点の乏しかった電力事業者を巻き込む形でのビジネスモデル構築など、異分野とのマッチング・連携という面でも、下水熱利用事業を通じ下水道分野における新たな事業展開の道筋や可能性を示した同社の功労は大きい。

 今後、下水熱利用事業をより広めていくためには、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例の制定、義務化や、都市計画上での位置付け等を担当する関連部局など行政内での横の連携も重要になる。また改築(更生)事業と一体的に進めていくことを考慮すれば、熱ポテンシャルマップだけでなく下水道管路の改築計画を予め熱需要家に向け積極的に公表していくなどの仕掛けも十分想定できる。

 技術はある。その技術を社会へと広く実装していくためのこうした出口戦略を官民総出で知恵を出し合い、下水道分野以外の多様な関係者をも巻き込みながら作り上げていくことが求められていく。下水熱利用のフロントランナーとして、脱炭素化を追い風に、今一度新たな案件組成に注目が集まる。


地域社会への貢献を希求

  • 画像
  • 画像
  • 日本下水道新聞 平成30年12月26日付
  • 日本下水道新聞 令和2年11月11日付

 同社は下水道管路を舞台に循環型社会の実現に向けた仕掛けに取り組む一方で、下水処理場を舞台に地域社会とのつながりを意識した試みについても果敢に挑戦してきた。一辺倒ではなく柔軟に、そして多様な関係者を巻き込みながら新たな仕掛けを打ち出せるのが同社の強みであり、企業色に思える。新潟県や長岡技術科学大学らをはじめとする産官学共同で下水処理場を核とした未利用資源・エネルギーを最大限活用する新たな取組み(ルネッサンスシステム)がその代表例だろう。

 未利用資源・エネルギーの集積地という下水処理場の新たな側面に着目した試みであり、前述の下水熱に加え、下水汚泥由来のバイオガスから抽出した二酸化炭素を用いて安定的に高付加価値農作物や植物の生産が可能な技術の社会実装を目指している。処理場周辺部の遊休地にビニルハウスを建設し、そのビニルハウスに植物の生育に必要な冷水やCO2を供給するシステムを整備している。

 平成27年度には国土交通省の下水道技術研究開発(GAIAプロジェクト)に、平成30年度には下水道応用研究に採択されており、年度ごとに梅花藻、イチゴ、ワサビ、バジルといった形で栽培品目を追加しつつ、各農産物・植物の生育に最も適した環境条件を日々模索してきた。低コストで高付加価値な農作物の大量生産を行えるようになれば、農業振興を通じた地域活性化にも貢献できるほか、下水道という都市インフラの新たな魅力や可能性を発信することにもつながる。

 故・大岡伸吉相談役の肝いりでスタートしたルネッサンスシステムだが、その根底には大岡氏が下水道事業でビジネスを営む上で大事にしてきた理念、「住民への訴求、メリット」というものが詰まっている。地域住民にとっては迷惑施設として捉えられることの多い下水処理場が、「地域に喜ばれる施設、新たな価値を還元できる施設として生まれ変わるために」という想いが強く込められている。そのことはこれからの下水道事業が進んでいくべきビジョンとも軌を一にする。事業環境の行く先を見据える大局観、地域・現場・住民目線で今必要なことに真摯に向き合うことのできるきめ細やかさ、そして先行投資を厭わない経営観、これらが掛け合わさり実現した、まさに同社の企業姿勢を体現するものだ。同氏が下水道に描いた夢がちりばめられている。見果てぬ夢の続きは確かに後人へと託されている。


記者の視点

 今、東亜グラウト工業は、まさしく地域創生・再生へと焦点を定めている。人口減少社会の加速、地方の存続が危ぶまれる中で、「まちの存続のために一体何ができるか」を真摯に考え、実践へと移している。事業環境を見渡せば、大きなうねりと変化が濁流のように押し寄せる時代が必ずやってくる。地域の持続に向け、民間企業の役割がより大きなものとなって行くと予見される中、同社ではこれからの10年、20年先を描いた将来ビジョンの第一歩を歩み始めている。今回で過去から現在に至る軌跡に想いを馳せる連載に一区切りが着いたが、これからも新聞報道を通じ、同社の新たな歴史を最前線で見つめ続けていきたい。

東亜グラウト工業株式会社の密着記事一覧

東亜グラウト工業株式会社 トップに戻る