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東亜グラウト工業株式会社

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100年企業への挑戦 ブレない「志」で

―なぜ今、パーパス経営が求められるのか―

パーパス経営とは

 不透明な社会情勢、コロナショックによる経済停滞、そして新たな商慣習・労働市場の変化とさまざまな波が押し寄せる時代。近視眼的な事業展開では自然淘汰は避けられず、企業活動や経営能力に持続性を持たせなければ、時代の荒波を乗り越えることはできない。

 混迷を極める社会だからこそ、インフラ事業に身を置く企業だからこそ、何事にもブレない、揺るがない立脚点が必要だ。一企業としての存在意義、そして志を見つめ直すところが全てのスタートライン。目指すべき貢献の姿を明確にすること、すなわち企業としての「パーパス」がどこに向いているのかを自覚することで長期展望を描くことができる。その展望を実現へと近付けていく過程で、一企業として今為すべきことが鮮明になる。企業に対し、社会や環境問題への責任、貢献が問われる今だからこそ、あらためてパーパス経営という考えが脚光を浴びている。


目先にとらわれない視野で

山口乃理夫社長

 東亜グラウト工業もこのパーパス経営に基づく事業展開を強力に推し進めている。「志(パーパス)は目先の利益にとらわれてしまうものであってはならない。30年、50年という長期の視野で、志を実現へと導く施策への投資を厭わない姿勢を貫かなければならない」と理念を述べる山口乃理夫社長。企業としては利益追求は当然である一方、そればかりにとらわれると、『将来より今』という誤った舵取りに陥りやすいと警鐘を鳴らす。例えば、上場企業であれば株主(出資者)というステークホルダーの意向が足かせになることもあるという。

 山口社長が考えるパーパス経営の理想型は何かを問うと、優れたパーパスを掲げる企業として、竹中工務店を例に挙げる。「竹中工務店のパーパスには、営利のみの追求の否定や、建築物を作品として世に残し、社会に貢献するという職人としての精神性が企業のDNAとして400年間ブレずに根付いている。極めつけは、あえて『非上場』にこだわる点だ。短絡的な業績ばかりを追求することなく、社会的・文化的な資産の形成に貢献するためにも長期的な視点が重要であると説いている。このことを対外的に発信していることに感銘を受け、良い刺激となった」と述べる。

 ガバナンスを考える上でも、パーパス経営が機能する。「一般にESG経営という考え方が広く浸透しているが、ガバナンス(G)については監査など外部からの軌道修正に依存するのではなく、まずは社内でしっかり固めることが第一。社員一人ひとりにブレない確かな志、パーパスが根付いていれば、間違った方向に経営が傾くようなことがあっても自浄作用が働く清廉潔白な組織でいられる」とも述べる。


グッドカンパニーこそ

 山口社長が経営トップに就任してから一貫して抱く経営ビジョンが『ビッグカンパニーよりもグッドカンパニーに』という想い。「顧客・従業員ともに満足度の高い企業であること、顧客の期待を上回るような品質・サービスを提供し、プラスの価値として感動してもらえることを目指したい。従業員に対しては、待遇のみならず個々人の希望、具体的には『こういう仕事がしたい。チャレンジがしたい』という想いに手を差し伸べ、自己実現のお手伝いをできるような会社にしたいと考えている。顧客・従業員双方の満足度が高まれば、必然的に増収増益体制の構築へとつながり、ひいては安定・持続的な企業経営、利益還元による社会貢献にもつながる」と強調する。

 グッドカンパニーを目指す上では、経営者として三つのポリシーを大事にしている。

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  • 「働き方改革グロース企業」認定証
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 一つ目が前述の顧客・従業員第一主義の徹底だ。経営者は従業員に、従業員は顧客を第一に考えた施策や行動に取り組んでいる。従業員の暮らし、家族を一番に考え、人材育成の強化、福利厚生の充実、多様な働き方プランの考案など経営側から従業員への歩み寄りを実践。こうした姿勢はSMBCグループが認定する「働き方改革のグロース企業」に5年連続選出される形で評価を受けている。

 二つ目がベクトルの一致だ。京セラ創業者として有名な実業家の故・稲盛和夫氏が提唱する哲学・思想の一つに『個人や仕事における成功は、考え方と熱意と能力の三つの要素の掛け算で決まる』というものがある。「現在、東亜グラウト工業は11社というグループ企業の集合体となっている。個々の企業や従業員が優秀な存在であっても考え方や方向性が一致していないと大きなマイナスの結果をもたらすことにつながりかねない。まずはしっかりと全員のベクトルを合わせることが大事」とのことで、稲盛氏の哲学を経営の要諦に据えている。同社ではここ数年、橋梁・水道など従来の事業領域を越えた他のインフラ分野の企業との業務提携を活発に進めているが、まずは同社のスタンス、パーパスを説明し、同じ志(パーパス)を持てるか否かというベクトルを業務提携の際の最も重要な条件・判断基準としている。

 そして三つ目が、失敗奨励文化の定着だ。優秀な人間にはとにかく機会を与え、意欲を育むが経営者としての信条。「失敗は当たり前。失敗しないと人は成長しない。一生懸命チャレンジしてその結果、失敗したらそれは仕方がない。失敗を糧にしてくれたらいい。そういう意味から、チャレンジ・失敗に関してはむしろそのチャレンジを称賛し、仮に失敗したとしてもそのプロセスを評価してあげるような文化を作り、根付かせていきたい。」と力強く語る。40~50代の中堅層社員を積極的に業務提携先の企業に送り込んでいるが、これもそうした考え方の一環。今までとは違う環境・人脈の中でチャレンジ精神を養う場を用意している。自身もこれまでの経歴の中で同じ立場でチャレンジを重ねてきた身であるからこそ、そうした姿勢を応援・評価する気持ちは人一倍強いように思える。


レジリエンスも備えた姿に

 事業環境を見渡せば、さまざまな時代の荒波が到来しつつある。生産労働人口、分布とも2030年を待たず大きく様相は一変。各産業での労働需給ギャップは、AI・ロボット化の進展、人口減少社会の加速を背景に進行している。

 また、災害大国である日本においては震災、風水害など不測の事態への備えも必須だ。物流・調達のリスクも顕在化している。円安ドル高により海外からの商材買い付けで苦境に立たされる場面も業界全体を見渡しても珍しくない事象だ。

 想定外とされるもの、備えにより回避や影響を最小限にできるもの、パーパス達成までの数十年のシナリオの中では、大小さまざまなリスクに曝されるのは避けては通れない。山口社長は、レジリエンス(復活力)も兼ね備えた企業こそがこれからの社会を生き抜くためのエッセンスであると強調する。「危機にあっても見失わない座標軸としてパーパスがある。そのパーパスにたどり着くための持続的な成長を維持する力がレジリエンス(復活力)という位置付け。企業はこの二つが備わってはじめて志、パーパスを完遂することができる」。

 事実、東亜グラウト工業では、2年間売上がゼロとなっても揺るがない財務体質を整えているほか、さまざまなシナリオを想定したBCP(業務継続計画)も策定済み。

 「何が起ころうとも従業員が安心して働ける会社であるということは従業員第一主義の現れでもある。経営資源の中心たる従業員を守ることもパーパスの達成には不可欠。レジリエンスがこれからのキーワードになる」と力強く語る。


目指す姿はまちのお医者さん

 具体的に、東亜グラウト工業のパーパスとは何か。それを表したのが右図(まちのお医者さん)になる。

 「上下水道・橋梁・防災と各コア事業から裾野を広げ、将来的には地方創生・地域再生の一翼を担う企業でありたい。目指すは『まちのお医者さん』を標榜し、その実現に向けて企業経営を進めている。現状ではインフラメンテナンス・防災事業に特化した会社であるが、段階的に実現へと近付けていく。まずは第2パーパスとして『インフラメンテナンス総合ソリューション企業の確立』を目指すことを社員共通の認識とし、進めている」と大枠を紹介。

 管路更生・洗浄・耐震化技術、斜面防災技術、そして地盤改良技術と、他の追随を許さない独自技術を多数保有する同社。個々の技術の組み合わせによる分野を越えた『面』での特化ビジネスモデル構築を目指している。例えば水道・下水道一体という横の連携、漏水検知技術・アイスピグ・光硬化工法という縦の連携、広くインフラメンテナンスを捉えた提案を指向している段階だ。

 「個々のインフラ分野ごとの事業展開では将来的には限界が訪れるという実感がある。地域に真に寄りそう姿とは何かを考えた時に、当社であればインフラ全てを一括りで担える、提案できるというのが理想型。その次のステップとして、まちが生き残る、再生するために当社であれば何ができるかということを真摯に考えていきたい」とこれからのビジョンに言及する。


100年企業への決意

 山口社長が目指す東亜グラウト工業の経営モデルとは何かを紐解く上で参考となるのがPHP研究所発行の『失われた20年の勝ち組企業』という分析書だ。1990年代のバブル崩壊から2010年ごろまでの不況・景気減退期において、各産業分野における『勝ち組』企業100社を経営モデル別に分類し、成功の法則をまとめたもの。

 勝ち組企業の類型は大きく四つに分けられる。このうち山口社長が注目するのは、キーエンス、ファナック、堀場製作所が実践する経営モデルだ。経営変革力(トップ)に依存せず、収益モデル構築力や市場開拓力、そして何よりもオペレーション力に優れた企業像を理想として掲げる。

 「優れた経営者に依存する企業体質では持続性は担保できない。誰が経営者であっても企業経営が揺るがず、回り続けるよう仕組みづくりができた会社こそ理想。前述の各企業は、まさにパーパスが社内に浸透し、レジリエンスを内包しているからこそ、そうした仕組みが出来上がっている。東亜グラウト工業は故・大岡伸𠮷氏が創業し、65周年を迎えることができたが、100年、200年企業を目指す上では、誰が経営者でも盤石な企業体質をつくり上げる必要がある。これもまさに私がパーパス経営を意識した理由でもあり、私に課せられたミッションだと思っている。400万社もの日本企業のうち、100年企業はわずか1%に過ぎない。だが、東亜グラウト工業はその1%に挑戦できるポテンシャルを持ち得る会社だと自負している。社員とともに、誇れる会社を作り上げていきたい」と決意を語る。


記者の視点

 社会に必要とされ続け、社員が安心して働くことのできるというあり様は、どの企業にとっても理想だ。その一方、社会や事業環境を見渡せば、さまざまな事象が複雑に絡み合い、物事に向き合う上では一つの最適解で固定化されることなく変化への柔軟な対応が日々求められるなど、将来予測が困難かつ曖昧な時代に直面している。不明確なもの、曖昧さに流され、惑わされることなく地に足を付けること、自らの使命を自覚し、為すべきことを知るということ、この二つを企業活動に落とし込む。これからの時代で生き残る術の基本をまさに実践へと移し始めた。

 ここ10年でグループ全体の売上高は約3倍、社員数も約400人もの組織規模となった東亜グラウト工業。まだまだ拡大期にある企業であるからこそ、既存の従業員のみならず、これからも増えていく新たな仲間・パートナーにも経営者としての考えを隅々まで理解してもらい、志を共有したい――。山口社長は何よりもこのことを大事にしている。

 優れた製品・サービス、優秀な社員、組織全体をマネジメントするシステム、これらを持ち寄り整えたとしても「志」が伴わなければ、仏作って魂入れずということになりかねない。そのことをわれわれも戒めとしたい。

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