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株式会社フソウ

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水をつくる、いかす、考える

培った経験が生み出す
      "現場"イノベーション

大阪府安威川流域下水道

岸部ポンプ場雨水沈砂池機械設備更新工事

■変化する時代の中で

 近年、あらゆる分野でデジタル化が進む中、水インフラ分野においても、同様の動きが加速している。国土交通省下水道部ではICTを軸とした下水道事業全体の生産性を向上させる「i―Gesuido」を打ち出し、改築更新の現場で実践、施工環境の変革が進んでいる。浄水場や下水処理場など上下水道施設の施工を多く手掛けてきたフソウでは、2015年から日本下水道事業団との共同研究に参画するなど、いち早くBIM/CIMの活用に取り組み、施工の効率化につなげてきた。

 その中でも象徴ともいえる事例が、大阪府から受注した安威川流域下水道岸部ポンプ場雨水沈砂池機械設備更新工事だ。社会情勢や施設状況の変化に合わせた改築・更新計画が求められる中、この工事は極めて類似した施設の設計成果を用いて発注し、施工に併せて一部設計内容を修正する既存設計成果活用型工事発注方式が採用された。一般的には、コンサルタントが受託した詳細設計書に基づいて発注されるが、本件の業務範囲は受注者が設計内容の修正からEPCまでを担うことが特徴だ。そのため、設計照査・変更協議とともに短期間での現場施工が求められた。

 こうした状況に対してフソウは、①全天球画像②点群データ③BIM/CIMの3点セットで構成する独自のデジタル現場情報システムを駆使し、限られた敷地の中で既存除塵機の撤去から新たな除塵機・集砂装置等の設置工事をわずか1年足らずで完了させた。


 ■BIM/CIMを活用した施工の効率化

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  • 搬入検討(岸部ポンプ場)
  • 搬入検討(岸部ポンプ場)

 同社は、1946年の創業以来75年にわたり、国内のあらゆる上下水道施設を手掛けることで磨き上げてきた現場力を駆使し、近年、増加している施設の改築更新工事において、30以上の現場でBIM/CIM等のデジタル技術を活用した施工の効率化を実現してきた。

 こうした豊富な経験に基づき、受注直後に施工現場をデジタル化し、仮想空間にて照査・検討を行うためにポンプ場内部の設備や配管の位置を「点群データ」と呼ばれる形式で取得。

 さらには360度の全天球画像や3次元モデルを組み合わせて、設計・施工に必要となる正確な現地情報を迅速に把握し、施工計画や機器設計に反映するとともに、コロナ禍で移動や打ち合わせが制限される中において発注者と受注者や協力業者間のコミュニケーションの効率化を図った。また、完成後の点群データも取得し、オペレーションとメンテナンス、さらには改築・更新へつながる成果品とした。


■3次元モデルで物体構造を立体視

 本工事で設置した除塵機の部品は、大型のパーツが多く、設備を覆う鉄板の長さはおよそ5mにも及ぶ。加えて、実現場では既存の設備に加えて、配管や足場が複雑に入り組んでおり、これらを搬入することは容易ではなかった。しかし、平面図上では搬入不可能と判断されても、3次元モデルで表現した画像でシミュレートすると、搬入可能なルートを発見することができた。

 また、3次元モデル化によって、その設計で実際の施工が可能かを事前に把握。仮に、一部変更の必要性が生じたとしても、その根拠となる情報を3次元モデルによって見える化したことで、相互の協議が非常にスムーズに進んだという。1年足らずという工期を着実に遂行したことで、発注者である大阪府からも迅速な施工に対する高い評価を受けた。

全体俯瞰(施工前)

全体俯瞰(施工後)

 上記は今回工事の現場施工前・施工後の点群データ。奥側水路の除塵機等が撤去・更新されたことがわかる。このように3次元モデルにすると狭い現場で実際に見ることができない視点から全体を俯瞰することができる。


 ■コミュニケーションツールとして

 BIM/CIMに対するフソウの取組みは、単に情報を入力して3次元データ化するのではなく、情報を活かせる「コミュニケーションツール」となるよう構成されている。

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 施設の形状や設備情報という資産を見やすく、使いやすくすることを意識。複雑な図面もVR空間で表現することにより、理解しやすい環境を形成するだけでなく、遠隔地からのアクセスも容易となり、対面でのミーティングが可能となるなど、意識疎通の円滑化にもつながっている。

 一方で、BIM/CIMモデルの構築にかかる手間や時間を省くことは容易ではない。そのため、より簡便な点群データや全天球画像との組み合わせを用途や目的に応じて採用。設計照査や変更協議といった業務での利活用を図っている。

 また、海外より高度人材を登用するなど実働部隊の育成にも積極的に取り組んでいる。こうした活動が評価され、2020年9月に国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」のイノベーション賞を受賞した。


■進化する「デジタルのフソウ」へ

 同社は既存事業にとらわれない新たなサービスを創造するため、2020年6月にソリューションデザイン事業部を設立するとともに、デジタル化を軸としたさらなるサービスの高度化を見据え、デジタル推進部として発足。顧客に提供する価値を、販売・工事に代表される従来の「モノ」から、得られる成果である「コト・サービス」へ昇華させるため、長期的な視野で新たな事業領域に挑戦する。

 2021年8月には、ドローンやロボットによるDXソリューションを手掛けるブルーイノベーションと共同で上下水道施設の内部・外部を3次元モデル化するサービスのトライアル提供を開始した。

 「デジタルのフソウ」を手掛けるソリューションデザイン事業部の田中聡プロジェクト管理部長は、「デジタル化によって見える化された情報が、これからの上下水道事業の『共通言語』となる。これまで培った技術を核に、見える化された情報を存分に生かしていきたい」と意気込む。強みであった現場力をさらに活かすフソウブランドの新たなフラッグがまさに今、掲げられようとしている。


記者の視点

 「デジタル化」の意味は非常に幅広い。紙ベースの情報を電子データ化するのも、あらゆる情報をデジタル技術でつなぐことによる社会変革(いわゆるDX)も含まれるようだ。いずれにせよ、その先には情報の利活用によるイノベーションの実現という目的がある。上下水道におけるデジタル化の進捗にはさまざまな見解があろうが、加速の成否は「便利さの共有」に依るところが大きい。ここでの“共有”の対象は、内部というより外部の、幅広い関係者を想定している。

 先の電子データ化をはじめ、これまでと同様に内部のデジタル化は自然と進むに違いない。ところが複数の主体が関わる場合はそうはいかない。DXを照準に定めるならばなおさら、皆が日常業務の中で恩恵を実感しながら、同じ方向を目指す必要があろう。

 田中氏が「情報を共通言語とするための手段」と表現する3次元モデリングは、まさに関係者が等しくメリットを享受できるツールだ。現行業務の効率化・高度化にとどまらず、より多くの情報を集約し、さまざまな主体が共有していくことで、利活用の可能性は無限に広がっていく。

 フソウがこれまで75年間培ってきた現場力は同社の根幹だ。これらに進化を止めぬデジタル基盤が加わることで、“強み”から“厚み”へのイノベーションに期待が高まる。

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