WSを振り返って
山村 今回、学生たちとフソウテクノセンターを訪問させていただくに当たって、見学後、「地域水道ビジョン」について考える場として、WSを実施しました。学生にとって水道ビジョンは、現場での課題やニーズなどを体系的に知るための良い教科書になるのではないかと考えたからです。また、各地域の水道ビジョンを読み解くことで、水道事業に携わる関係者が抱いている危機感について共有するねらいもありました。そして、大学の講義ではなく、現業を知る企業の方と読むことが一番大きなポイントでした。
田中 当社では数年前から、地域水道ビジョンを読み込んで、ディスカッションするという新入社員研修を実施しています。こうした背景があって、今回のWSを提案しました。
当社の社員は、水やインフラに興味があって入社している人も多いのですが、彼らは必ずしも上下水道を学んできたわけではなく、文系・理系問わず、水への興味や思いで入社を決めている場合もあります。こうした社員を含めた新入社員全員が受ける研修だからこそ、水道ビジョンに触れたことのない人がいるのは当然だと思っていたのですが、大学で上下水道を学んでいる学生でも、授業ではビジョンに触れる機会が少ないと知ることができたのは新たな発見でした。
加藤 私は元々、インフラの建設に興味があり、土木工学科を志望していました。研究室選択では、物理や化学など数値を使ってインフラに携わりたいと思い、山村研究室を選びました。現在は、3Dプリンタで膜を印刷するという研究を行っています。膜ろ過については、各地で異なる原水に対して、現状、市販の膜で対応するしかないという課題があります。この課題を解決するため、3Dプリンタを活用して、オーダーメイドの膜を作りたいと考えています。
私自身、今回のWSが地域水道ビジョンに触れる初めての機会でした。私のグループが課題としていただいたビジョンは大体70ページほどあったので、全員が全ページに目を通した上で、1人約20ページずつ分担して、2時間ほどかけて読み込みを行いました。
山村 私は日頃から、研究と水道事業がつながることを重要視していて、学生には研究で得られた成果をどこに使うのか、何に使うのか、と必ず問いかけています。しかし、この問いにしっかりとした答えを持つためには、水道事業の課題を知る必要があります。
その反面、ビジョンの多くは10年間を計画期間としているため、多くの自治体職員は10年先を考えていると思うのですが、研究の場合、もう10年、もしくはもう20年先を見据えるケースが大半で、ビジョンとは時間軸が異なる場合もあります。学生にはもう少し先の社会を想像してほしいという思いもあるので、そのあたりの伝え方が難しいと思っているところです。
加藤 今回のWSでは、「新水道ビジョン」に位置付けられている水道の理想像「安全」「強靱」「持続」の三つの観点に分けて、地域水道ビジョンを読み解くという手法がとても新鮮でした。事前にグループで話し合った際にはビジョンで掲げている取組みを一つひとつ切り分けて考えていたのですが、WSの当日、田中さんからその考え方を聞いたことがビジョンを読み込むに当たってのヒントとなりました。
田中 今回は、学生たちにフラットな視点で地域水道ビジョンを読んでもらい、その内容について発信するというWSでしたが、テーマは違えど、学生たちはこうした取組みに対して、普段から「なぜこんな問題があるのだろう」と考え、何らかの解答を出そうとするという一連の流れに慣れているように感じました。彼らはたまたま水道ビジョンに触れる機会がなかっただけで、考え方は一緒です。その中で、われわれも学生の率直な意見を聞ける良い機会をいただきました。
山村 地域水道ビジョンでは普段、学生たちが触れないような、「アセットマネジメント」などの言葉が使われていて、中には講義で説明した言葉もありますが、学生からすると、それらの言葉一つひとつがつながっていないのだと実感しました。こうした視点を含め、上下水道事業の全体像について、どのように教えていくべきなのか考えさせられました。