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株式会社フソウ

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地域課題を解決に導く
    フソウが描く水の未来

3者インタビュー

山村 寛・中央大学理工学部人間総合理工学科教授

田中 聡・フソウソリューションデザイン事業部プロジェクト管理部長

加藤ななみ・中央大学理工学部人間総合理工学科4年

(左から)田中部長、加藤さん、山村教授

 フソウは、創業70周年を迎えた2016年11月、高松市郷東町に「フソウテクノセンター」を開設。次世代の技術開発と人材育成・研修拠点のほか、地域住民とのコミュニケーションの場として活用してきた。

 9月2日には、中央大学理工学部人間総合理工学科の山村寛教授と研究室の学生16名が同施設を訪問。学生たちは、施設内のオフィスや技術開発ラボ、体育館、茶室などを見学し、技術と人材育成のベースセンターであるとともに、地域の防災拠点としての機能に驚いている様子を見せた。

 見学後には4グループに分かれ、ワークショップ(WS)を実施。各グループには、全国の水道事業体が策定した「地域水道ビジョン」を活用し、「安全」「強靱」「持続」の観点から、現状分析や今後の課題探しなどに取り組み、発表とディスカッションが行われた。山村教授、フソウソリューションデザイン事業部プロジェクト管理部の田中聡部長、WSに参加した中央大学4年生の加藤ななみさんに、WSを振り返るとともに、デジタルの活用、地域とのつながりについて語り合ってもらった。


WSを振り返って

 山村 今回、学生たちとフソウテクノセンターを訪問させていただくに当たって、見学後、「地域水道ビジョン」について考える場として、WSを実施しました。学生にとって水道ビジョンは、現場での課題やニーズなどを体系的に知るための良い教科書になるのではないかと考えたからです。また、各地域の水道ビジョンを読み解くことで、水道事業に携わる関係者が抱いている危機感について共有するねらいもありました。そして、大学の講義ではなく、現業を知る企業の方と読むことが一番大きなポイントでした。

 田中 当社では数年前から、地域水道ビジョンを読み込んで、ディスカッションするという新入社員研修を実施しています。こうした背景があって、今回のWSを提案しました。

 当社の社員は、水やインフラに興味があって入社している人も多いのですが、彼らは必ずしも上下水道を学んできたわけではなく、文系・理系問わず、水への興味や思いで入社を決めている場合もあります。こうした社員を含めた新入社員全員が受ける研修だからこそ、水道ビジョンに触れたことのない人がいるのは当然だと思っていたのですが、大学で上下水道を学んでいる学生でも、授業ではビジョンに触れる機会が少ないと知ることができたのは新たな発見でした。

 加藤 私は元々、インフラの建設に興味があり、土木工学科を志望していました。研究室選択では、物理や化学など数値を使ってインフラに携わりたいと思い、山村研究室を選びました。現在は、3Dプリンタで膜を印刷するという研究を行っています。膜ろ過については、各地で異なる原水に対して、現状、市販の膜で対応するしかないという課題があります。この課題を解決するため、3Dプリンタを活用して、オーダーメイドの膜を作りたいと考えています。

 私自身、今回のWSが地域水道ビジョンに触れる初めての機会でした。私のグループが課題としていただいたビジョンは大体70ページほどあったので、全員が全ページに目を通した上で、1人約20ページずつ分担して、2時間ほどかけて読み込みを行いました。

 山村 私は日頃から、研究と水道事業がつながることを重要視していて、学生には研究で得られた成果をどこに使うのか、何に使うのか、と必ず問いかけています。しかし、この問いにしっかりとした答えを持つためには、水道事業の課題を知る必要があります。

 その反面、ビジョンの多くは10年間を計画期間としているため、多くの自治体職員は10年先を考えていると思うのですが、研究の場合、もう10年、もしくはもう20年先を見据えるケースが大半で、ビジョンとは時間軸が異なる場合もあります。学生にはもう少し先の社会を想像してほしいという思いもあるので、そのあたりの伝え方が難しいと思っているところです。

 加藤 今回のWSでは、「新水道ビジョン」に位置付けられている水道の理想像「安全」「強靱」「持続」の三つの観点に分けて、地域水道ビジョンを読み解くという手法がとても新鮮でした。事前にグループで話し合った際にはビジョンで掲げている取組みを一つひとつ切り分けて考えていたのですが、WSの当日、田中さんからその考え方を聞いたことがビジョンを読み込むに当たってのヒントとなりました。

 田中 今回は、学生たちにフラットな視点で地域水道ビジョンを読んでもらい、その内容について発信するというWSでしたが、テーマは違えど、学生たちはこうした取組みに対して、普段から「なぜこんな問題があるのだろう」と考え、何らかの解答を出そうとするという一連の流れに慣れているように感じました。彼らはたまたま水道ビジョンに触れる機会がなかっただけで、考え方は一緒です。その中で、われわれも学生の率直な意見を聞ける良い機会をいただきました。

 山村 地域水道ビジョンでは普段、学生たちが触れないような、「アセットマネジメント」などの言葉が使われていて、中には講義で説明した言葉もありますが、学生からすると、それらの言葉一つひとつがつながっていないのだと実感しました。こうした視点を含め、上下水道事業の全体像について、どのように教えていくべきなのか考えさせられました。


地域課題解決へのアプローチ

 田中 この機会に、そもそもなぜ当社が香川県にテクノセンターを作ったのかお話ししたいと思います。香川県のある四国は、4県合わせても兵庫県より人口が少ないのですが、当然、そこで生活する人がいて、水インフラを持続させていく必要があります。しかし、それぞれの地域によって特性が異なり、上下水道事業においても多様な課題があります。こうした地域課題を解決に導くことこそが当社の使命だと思っています。

 これらの課題が生まれる原因の一つに人口減少がありますが、これがより顕著に表れるのが地方です。つまり、地方の課題に向き合って解決することができれば、それが全体の課題解決に必ずつながるのではないかと考えました。その上で、当社に何ができるのか、そうした思いの中で生まれた一つの答えがデジタル技術の活用でした。

 デジタル技術を活用することは一般的に、省力化・効率化と言われますが、当社は一つの考え方として「スキルレス」を掲げています。極端に言えば、利用者自らがインフラを運用、維持することが最終的な目標です。今、それが難しいのは、インフラの運用、維持管理には特殊な技能が必要であるためです。ですが、仮にその特殊な技能をなくしたり、簡素化したりする「スキルレス」を実現することができれば、より多くの人でインフラを支えることができます。このような未来を目指して、当社はBIM/CIMやVRの研究開発に取り組んでいるのです。

 加藤 テクノセンターを訪問させていただいて、まず、実験室が広くて、羨ましく思いました(笑)。オフィスに茶室があったことも驚きました。そして何よりも、施設を案内していただく中で、地域とのつながりを大切にしているというお話を各所で伺って、私自身、地域での活動を通してインフラに興味を持ったので、地域と近くなるきっかけを得ることができるという点に魅力を感じました。

 最近、他の研究室の実験に参加してVRを体験する機会が何度かありました。その際に「これはVRの意味があるのか」と思うこともあり、VRの可能性に疑問を感じていたのですが、フソウテクノセンターでVR体験をさせていただいて、現場に行かなくても状況を把握できることのメリットがよくわかりました。ただその反面、実際、現場に行かなければわからないこともあるという点にも気が付きました。

 山村 デジタル化が進めば、時間の軸が変わります。VRで現場を見ることができれば、飛行機で何時間もかかる場所でも関係なく、また、輸送に何日もかかる機械でも3Dプリンタがあれば、数分から数時間で作れてしまいます。私はこうしたデジタル化について、「4次元化」と表現しているのですが、こうした中でインフラの維持管理に携わる方の夜勤をなくしたり、遠隔での管理を実現したりすることができれば、新たな働き方も提案できるのではないでしょうか。


〝地域の水〟の未来

 加藤 先ほどから、「地域」というキーワードが出ていますが、私自身も将来はできるだけ地域を巻き込みたいという気持ちが一番にあります。しかし、これには技術者不足という課題があるのだということにも気が付きました。この課題を解決するための第一歩として、より多くの方に上下水道事業のことを知ってもらう必要があるのだと確信しました。

 私は将来、専門知識を持つ技術者と地域住民とのかけ橋のような存在になりたいと思っています。幸いにも、地域と水について考える場をたくさんもらっているので、具体的にどのような仕事をしたいのか、これから大学院の2年間で考えていきたいと思います。

 田中 まずは、加藤さんのように興味を持ってもらうことが重要で、そのためには現状を知ってもらうこと、やりがいをイメージできることが大切だと思います。山村先生を通じて、学生の皆さんに当社の取組みを紹介できる場を持てたことはすごくありがたいことでした。われわれの世代がやるべきことは、次世代が活躍できる場と環境、関係性を紡いでいき、バトンタッチすることです。そのためにも、大学とより一層、連携を深めていくつもりです。そして、今回のWSでは、地域水道ビジョンをテーマとしましたが、こうしたビジョンは更新され続けていくものであり、その時々でキーワードとなる言葉が変わっていきます。変わりゆくキーワードをしっかりととらえ、広く意識してもらえるような活動も地道に続けていきたいと思います。

 山村 田中部長をはじめ、企業の方にはいつも大学では学ぶことができないことを教えていただいて、少しずつですが、現場の大変さについても理解ができました。学生の頃は、「この技術が完成すれば、全て解決できる」という勢いで研究に取り組んでいましたが、知れば知るほど、現場はそんなに単純なものではありませんでした。水道事業の現場に新技術を実装するためには、新水道ビジョンの課題を解決できなければなりません。だからこそ、ビジョンを理解し、研究とのつながりを説明できることこそが研究の社会的意義を説明する上で非常に大切なことなのです。

 最後になりますが、今回実際にこちらへ足を運び、フソウの皆さんが香川を特別な場所として思っていることがよくわかりました。香川にテクノセンターを作ったということがまさにその思いを体現していて、香川県出身としても嬉しく思いました。


記者の視点

 中央大学・山村研究室の学生がフソウテクノセンターを訪問、「地域水道ビジョン」を読み解くというワークショップを行ったことから3者インタビューが実現。人口減少社会下の中でどう水インフラサービスを持続させていくか、同社の創業の地・香川もこの難題に直面している。こうした課題に対し、他社に先駆けて上下水道インフラのデジタル化を推進。そして、地域による地域のための人材を育て、地域の持続へ産業創造と人材育成に真正面から向き合っている。

 ワークショップではフソウの社員と積極的なコミュニケーションを図り、地域社会が抱える現実を直視することで、将来に向けて何をすべきか、前向きに考察する良い機会となったようだ。印象的であったのは、鼎談後に加藤さんが話した「地方での就職という選択肢が増えた」という率直な言葉だ。首都圏出身で、これまでは漠然と東京での就職を希望していたそうだが、フソウテクノセンターでのワークショップによって、新たな考えが生まれたという。

 地域と出会い、地域とともに歩む――。まさにフソウが創業以来70年にわたり、揺らぐことなく追い求めてきたフィロソフィーだ。人口減少という誰も経験したことのない新たな社会の到来を真正面から受け止め、解決へ地域とともに導いていく。その中で生まれた今の解がデジタル技術の活用であり、人づくりだ。同社が掲げる〝Answers for Community〟という言葉には、四国・香川から始まり、70年にわたり紡いできた水インフラの持続を支える企業としての強い矜持が込められている。

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