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クリアウォーターOSAKA株式会社

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下水道トータルマネジメント企業へ

~多様な人材が織りなす支援メニューで課題に対応~

総勢950人のエッセンシャルワーカー集団

 クリアウォーターOSAKAのスタッフは、総勢950人。大阪市民278万人が1日で利用する284万4000tの水全てをきれいにして自然に返すとともに、降雨時には都市を浸水から守る施設をトータルかつ適切に運転・維持管理し、安全で安心・快適な都市活動を根底から支えているエッセンシャルワーカー集団だ。

 同社は、大阪市がこれまで直営で管理していた下水道事業に対し、民間と行政の役割分担を明確にした上下分離方式による 「新たな経営形態」として、新たな官民連携の仕組みの下、民間原理を導入。広域的な事業展開を目指し、大阪市の出資と市の技術・経験・ノウハウを持つ社員によって2017年度から本格的に事業活動を開始した。

 始動から7年―。当初は社員のほとんどが大阪市からの転籍組であった。転籍組は文字通り、大阪市下水道130年史の中で技術・知識・ノウハウを継承してきたプロフェッショナル。今やこのプロフェッショナル集団に、中央省庁や他の地方公共団体で上下水道事業や都市計画などに従事してきた行政経験者をはじめ、大手銀行やコンサルタントなど民間企業で辣腕を奮ってきた経営経験者などが加わった。

 これにより、現場の最前線で小さな綻びさえも見逃さない職人からコンサルティングやマネジメントスキルを有するエキスパートに至るまで多彩な人材で形成した下水道トータルマネジメント企業へと歩み始めている。


多岐にわたる経歴が武器に

 下水道インフラは、管路から下水処理場まで複雑かつ多岐にわたる構造物や設備・装置で構成されており、これらを最適に運営していくためには土木・建築や機械・電気、化学といった専門知識を有する多様な人材が求められる。

人材育成のフロー

 同社は大阪市で培ってきた技術を継承・高度化させ、国内外に貢献することを経営理念の一つに掲げており、その実現に向けて、人材育成を強力に推し進めている。

 社員のキャリア形成と自己インセンティブ向上を図り、広く社会から求められる人材を育成するプランを構築、社員のスキルアップを成長戦略の一つに掲げていることから、同社に転職、入社する人材は多く、大学や高校を卒業したての新規採用社員以外はいずれも多様な経歴を有している。

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  • 岡本誠一郎・経営企画部長
  • 碇智・事業戦略部長
  • 田中計久・専務取締役
  • 湯浅泰則・事業戦略部推進役
  • 伊藤優一・事業戦略部事業開発課係長

 経営企画部長を務める岡本誠一郎さんは、国土交通省で流域管理官や、国土技術政策総合研究所で下水道研究部長を務めるなど国のキャリア官僚出身。事業戦略部長を務める碇智さんは、水コンサルタントとして業界をリードする日水コンの取締役を務めた歴とした民間企業の経営経験者だ。

 専務取締役の田中計久さんは大手銀行出身で、その後阪急阪神ホールディングス統合に関わり、阪神電気鉄道常務取締役を務めるなどの経験を有する。同社発足当初から経営アドバイザリーボード社外委員を務め、2019年からは常務取締役、2021年から専務取締役として同社の経営に参画。下水道インフラの魅力に取りつかれ、同社の経営資源と今後の発展に期待する一人だ。

 大阪市以外の地方公共団体から入社した社員も豊富な経験を持つ。事業戦略部推進役を務める湯浅泰則さんは大阪府出身で、流域下水道事業など建設行政を中心に従事。言わずもがな大阪府は、わが国の流域下水道事業を先導してきた歴史ある地方公共団体。そこで、流域下水道の計画・設計や維持管理、市町村の事業認可などに携わり、広域的視点と市町村目線を兼ね備えたベテランだ。

 化学職が専門の伊藤優一さんは京都市から転職。排水設備の維持管理指導をはじめ、処理場計画や雨水対策の検討、経営計画の策定に携わるなど、化学職としての専門分野にとどまらず多くの業務を経験。同社では、事業戦略部事業開発課の係長として、大阪市域外の業務や官民連携など同社の未来を担う事業に携わっている。


下水道の仕事に誇りを持って

 大阪市からの転籍組は、「下水道」という仕事にこだわりを持つ者も多い。

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  • 吉田義美・事業部東部土木施設課長
  • 吉田彩子・事業戦略部事業開発課主幹
  • 森田真史事業部施設課長

 事業部東部土木施設課長として管路管理の最前線を担う吉田義美さんは、地方公務員から民間企業への転籍に対して全く迷いはなかったという。吉田彩子さんは事業戦略部事業開発課主幹として、新たなキャリアを積んでいる。市では化学職として主に水質管理に携わっていたが、大阪市以外の業務や、匠の技と情報ツールを駆使した維持管理業務の先進性に魅了され、大阪市を退職して同社に入社した。

 事業部施設課長の森田真史さんは同社発足準備メンバーの一人として、2018年から入社。最前線での業務を希求し、今や創業メンバーの一人として同社の歴史をつなぐ生き字引の一人だ。

 彼らに「クリアウォーターOSAKAという企業とは」と聞いたところ、意外なことに「やりがいのある企業」「スキルの高い企業」と皆から同じような答えが返ってきた。大阪市出資の株式会社としての公共性と社会性に、民間企業としての経済性が加わることで行政スキルと民間ノウハウを兼ね備える同社。こうした自治体出資による民間経営を実施する形態は、ドイツのシュタットベルケに近い。シュタットベルケはエネルギー事業を中心とした地域公共サービスを担う公企業だが、同社は下水道事業を中心とした官民連携型水インフラ事業者であるといっても過言ではない。

 2022年に大阪市と下水道施設包括的管理業務委託契約を締結。2041年までの20年間にわたり、下水道施設の運転・維持管理業務を行う長期契約で、運転・管理の施設は下水処理場12カ所、抽水所(ポンプ場)58カ所、管路施設約5000km、マンホール約20万カ所、集水ます約60万カ所、取付管延長約2000kmにも上る。

 同社はこれらの業務を経営資源に、専門職が不足している大阪市域以外への支援業務も積極的に展開している。地域が抱える課題は千差万別。特に中小規模の地方公共団体では、人手不足により日常の業務に追われ、課題を見過ごしてしまっていることも多いのが現状だ。


千差万別の地域課題に向き合う

 同社は、行政スキルと民間ノウハウを兼ね備えていることで総合医療的な多角的視点で課題解決策をアプローチしていくことを目指している。

社内研修の様子

 医療分野においては、専門的かつ細分化された現代医療の中で、特定の臓器・疾患に限定せずに多角的に診療を行い、最適な治療に導く「総合診療」の分野も普及してきている。同社も同様に、設計、土木・建築、機械・電気、化学といった多様な職種のスペシャリストを抱えており、これらをチームとすることで自治体に寄り添い、最適な処方につなげていくことに務めている。

 大阪市域外業務は委託される地方公共団体から見ても、公益要素も強い同社だからこそ、安心して行政代行を委託することができるという心理的安全性の向上につながっている。一方、同社側から見ても社員の自信に結び付き、さらなるスキル向上という相乗効果を生み出していることも見逃してはならない。

 大阪市からの転籍組からすれば、大阪市民のために施設の長寿命化を導いたり、危機を察知するスキルといった大阪市下水道事業の中では「当たり前」のようなことでも他の地方公共団体と接することで、それが「当たり前」ではないという、同市の技術力と蓄積されたノウハウの重要性を再認識できたという。また、大阪市以上に「人」「モノ」「カネ」が不足している地域における下水道システムの持続を考えた時に、大都市の下水道を運営する大阪市の常識が必ずしも中小規模地域の常識ではないという社会感覚を磨くことができ、行政代行支援を展開する上で広い視野とスキルの向上につながっている。

 これらの効果は、現在政府が進めているウォーターPPP(水道、下水道、工業用水道においてコンセッション事業への段階的に移行するための官民連携方式)など新たな政策についても、導入に向けた地方公共団体や民間企業の不安に対して官民双方の視点から支援するなど、下水道事業のオールラウンダーとして事業持続に貢献していくことが期待される。


記者の視点

 多様な職種のエキスパート、さらには教育・研究機関で学んだ新規採用者が融合し、厚みある人材の層を形成するも課題がないわけではない。公的機関が民間企業となったものの、人件費の予算化やタイムマネジメントの浸透など、まだ道半ばという点もある。

 ただ、最大の経営資源である「人」は、社員のほとんどが熟練者であり、〝下水道のプロフェッショナル集団〟として強固。さらにプロパー社員の比率が必然的に多くなっていくことを見通し、技術の継承などキャリアアップを図る人材の育成・開発制度を充実させるなど余念はない。

 地域によって課題はさまざま。多様な人材を擁する同社だからこそ、地域に寄り添った奥深い支援が期待できるのである。

 「民間企業であって公的機関でなく、公的機関であって民間企業に見えない」という、一見、中途半端なように思われてしまう側面もあるが、その真の姿は公的要素と民的要素を兼ね備えた官民両用企業である。130年を超える伝統を持つ大阪市下水道事業のDNAを受け継ぎ、民間企業や中央省庁など他分野で活躍したエキスパートと融合した「人材の宝庫」として、これらを生かして、下水道トータルマネジメント企業として成長していく、そのプロセスに注目していきたい。

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