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維持管理の匠

ー大阪市民の〝当たり前〟を支える

予防保全のスペシャリストたち

(左から)施設課・池田隼翔さん、山崎孝信さん、西仲一真係長、三浦信隆主任

 当たり前の日常を支えるインフラの維持管理を担うスペシャリスト。彼らの存在なくして、良好な環境と市民生活の安全は維持できない、いわばエッセンシャルワーカーだ。

 大阪市全域の下水道施設の管理運営を担うクリアウォーターOSAKA(CWO)の社員はおよそ1000人。その施設管理の最前線である事業部の中で、静脈機能である管路施設の機能維持を受け持つのが施設課巡視・点検担当である。同課は大阪市港区に位置する市岡下水処理場内に事務所を構え、13人という少数精鋭の社員で市内全域に張り巡らされている約5000kmもの管路の予防保全の一翼を担っている。

 またCWOは、令和6年1月1日に発生した能登半島地震において、大阪市からの協力要請を受け、巡視・点検の高いスキルを持つエキスパートを調査隊として現地へ派遣。管路機能の本質を見分ける彼らの眼力は、早期復旧への歩みを進める大きな力となっている。大阪市民の当たり前の日常を支える傍ら、1日も早く被災地域における当たり前の日常に取り戻すべく、下水道インフラの機能維持を担う匠たちは献身的な活動を続ける。


巡視・点検からデータの入力まで

 施設課巡視・点検担当の主な業務は、マンホールおよび集水ますの巡視・点検。巡視・点検の結果は、管路管理センターに報告し、状況を確認した上で、機能支障の恐れのあると判断された管路は各管路管理センターが補修などを行う。

 しかしながら、その点検項目は膨大だ。マンホール蓋の表面はもちろん、マンホール内部を目視し、管路内で汚水の滞留がないか、内部に損傷がないかを入念に確認する。蓋周辺の舗装のチェックも怠らない。マンホール蓋の蝶番が外れている場合はその場で設置・修復作業を行う。

 集水ますについても、周辺道路の陥没のほか、ますが道路の側溝から完全に出てしまうなど危険な場所に位置していないか、取り付け管の状況は正常かどうかなどを一つひとつ丁寧に確認していく。

 大阪市内にあるマンホールは約19万基。1スパンに対して、集水ますは平均5~6カ所だが、多いところでは15カ所にも及ぶ。このうち、令和5年度の点検箇所は1万7745スパン。これらを3班で1年かけて点検していくのである。

 点検箇所数は日によって異なるが、およそ1日1班30スパン前後。毎月約1600スパンを点検する計画で、毎日の歩数は1万5000歩以上に及ぶ。1年のうち、約11カ月かけてこれらの巡視・点検を行い、残りの1カ月は雨天時の予備日として確保するほか、来年度の準備や計画の策定に充てる。

 巡視・点検を担当する13人のうち、係長を除いた12人が1班4人の3班体制で業務を行う。それぞれの班には主任が1人ずつ配置されており、この主任を中心に班を編成していく。

 班のメンバーは決して固定せず、2カ月に1回、必ず入れ替えを行う。これは班ごとに独自ルールを作らず、慣れ合い防止や、スタッフ全員で情報共有できるようにするための工夫だ。

 おおむね午前中から昼頃にかけて巡視・点検を終えた後は、点検データをシステムに入力する。この作業が想像以上に煩雑なのである。現場で手書きした情報を一旦整理し、システムに設定された必要項目に沿ってデータを入力していく。各班、主任以外の3人がデータを入力し、主任が確認した後、係長が3班全てのデータを確認し、管路管理センターに報告する。正確なデータが求められるため、ダブルチェックは必須だ。

 各班を束ねる主任の一人である三浦信隆さんは、入力システムの改良に注力している。大阪市から指定された入力方法に従った上で、作業の効率化が図れるよう、実際に入力作業を行う係員の意見を聞きながら、システムのカスタマイズを続けているという。

 三浦主任は、「自分も含めて、皆いつ異動があるかわからないので、次に来る人が新規採用の係員でも、システムが苦手な人でも、業務をきちんとルール化しておけば、誰でも活躍できるし、そうでなければならない。係員のためになってこその主任だと思うので、コミュニケーションをしっかりとっていきたい」と意欲は尽きない。

 そして、意外にも現場に出ると4人の役割は流動的だ。それは誰でも全ての業務ができるように、また、道路など現場の状況によって異なるためである。1人がマンホール蓋を開け、その間にもう1人がデータを記入、残る2人が交通誘導と集水ますの点検を行う場合もあれば、交通量の多い場所や交差点などでは3人で交通誘導を行うこともある。その場、その場で臨機応変に行動する。だからこそチームワークが命綱だ。こういった地道ながらも堅実な仕事振りだからこそ、〝当たり前〟の日常が守られるのである。


新たな体制で歴史を積み上げる

 大阪下水道130年史の積み上げから確立されたように見えるこの巡視・点検の体制だが、現行の体制は3年前から始まったばかりである。これまでは市内8カ所にある管路管理センターがこれらの業務を担っていたが、コロナ真っ只中の3年前、巡視・点検業務が施設課に集約され、まさにゼロからのスタート。執行体制や進め方が確立されていない中、24行政区の巡視・点検業務を任され、現在の形を構築するに至った。データ入力に関しても当初は紙ベースでセンターに提出していたが、2年前にデータ入力のほか、蝶番の設置作業が新たな業務として追加されたため、いかに業務の効率化が図れるかを常に追い求めている。

 2023年4月にCWOに入社し、施設課に配属された池田隼翔さんに、〝仕事において一番大切なことは〟と問うと、「チームワーク」と即答。時間内に仕事を終わらせるためには、日々のコミュニケーションがとにかく大切だと話す。また、入社当初はとにかくデータ入力に苦戦したというが、「だんだんデータの精度が向上してきたことを実感している」と仕事への手応えも掴み始めているようだ。

 一方、班を束ねる立場である三浦主任。元々は、大阪市の職員として採用されたこともあり、「市民サービス」に重きを置く。「今、私たちが行っている下水道の維持管理の業務も市民サービスの一環だが、それだけでなく、現場でどれだけ市民の役に立てるかを意識している」と力を込める。巡視・点検業務を正確にこなすことはもちろん、現場作業中には道を尋ねられたり、下水道に関する相談で声をかけられたりすることもあるという。そんな時は、どんなに忙しくても最後まで話を聞くことを心掛けている。市民生活の根底を支える仕事だという「誇り」と「責任」を垣間見た。

 ベテランの山﨑孝信さんのモットーは、「とにかく人を見ること」。これには歩行者はもちろん、自転車や自動車など現場を通る全てが含まれる。「油断すると事故にもつながるので、現場では360度、神経を使っている。現場はまさに一期一会。とことん観察することを意識している」と話す。こうした五感をフルに活動した観察力と経験値が、現場の異変に一目で気付く「ベテランの勘」にもつながる。

 「勘」について、三浦主任が一つのエピソードを披露してくれた。とある日の点検時、三浦主任が道路を歩いている時に側溝あたりから「シュー」という微音がかすかに聞こえたという。違和感を覚えて、集水ますを確認してみると、内部で水道水が漏水していた。三浦主任曰く、「こうした細微な変化は現場で全神経を張り巡らせていないとわからない」という。このような「勘」はすぐに取得できるものではない。しかし、ベテランと若手混然一体のチームで毎日の現場に真摯に向き合っていけば、核心が磨かれ、技術の継承へとつながっていく。

 彼らは口々に「何もない現場の方が珍しい」という。蓋が浮いていたり、道路がせり上がっていたり、蓋が錆びて開かないことも珍しくない。大阪駅前など6車線ある中での作業や、集水ますの上に植木鉢や鉄板など私物が置いてある中での作業も多い。3班を統括する西仲一真係長は、「巡視・点検業務を軽視されることが辛い」と胸の内を話してくれた。

 彼らの日々の業務の大切さを伝えることは難しい。なぜなら何も起きないことこそが、巡視・点検の成果だからだ。それでも彼らのような〝プロ〟がいるからこそ、われわれの生活が守られていることを決して忘れてはならない。


記者の視点

 地道かつ緻密、そしてチームワークが求められる、これぞまさにプロの仕事――。施設課の巡視・点検班の仕事を目の当たりにした率直な感想だ。

 彼らが日々、現場で行う巡視・点検業務が大変なことは理解しているつもりだった。それでも想像以上の点検項目に驚いたが、何より点検後のデータ整理には頭が下がる。インタビューで、「データ入力が大変」と聞いた時は、何が大変なのかわからなかったが、実際に業務の一端に触れると、その意味がよく理解できた。

 現場での巡視・点検の結果を正確に記録することは大前提。その上で、現場ごとの状況や緊急度などを管路管理センターにわかりやすく正確に伝えることが至上命題。275万人が住む大阪市内に張り巡らされている約5000kmの下水道パイプラインをたった13人で守ることは容易なことではない。彼らが行う日々の地道な作業がいかに尊いか、「エッセンシャルワーカー」の矜持が見えた。

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