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クリアウォーターOSAKA株式会社

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設備保全の匠

-五感を研ぎ澄ませ、施設の息づかいを見極める

プロフェッショナル集団

住民生活の縁の下を支えるエキスパート

 住民の日常を縁の下で支える熟練者。輝かしいスポットライトを浴びることはないものの、誠実かつ真摯な仕事ぶりは、いぶし銀の輝きを放ち、地域の安全に火を灯す。

 365日24時間、絶え間なく動き続ける設備の健康状態を、五感を研ぎ澄ませて観察。市民生活になくてはならない下水道インフラの〝当たり前〟を根底から支える。クリアウォーターOSAKAは、そんな市民生活の縁の下を支えるエキスパートが多く在籍するプロフェッショナル集団だ。


どんな過酷な環境でも妥協しない

 クリアウォーターOSAKAは2016年7月、大阪市における市政改革の一環として、上下分離方式による大阪市下水道事業の経営形態の見直しに伴い、市の100%出資の監理団体として設立された株式会社。「快適な水環境の創出と、まちの安全安心を守り、くらしを支えること」の経営理念を掲げ、大阪市一円の下水道施設の包括的管理運営をはじめ、市域を超えた維持管理業務や行政支援、発注業務など積極的に事業展開を図り、さらにはJICA“草の根技術協力事業”など海外展開にも精力的に取り組んでいる。

 社員総数はおおむね1000人。その大半は、下水処理場や抽水所(ポンプ場)、管路管理センターなど下水道サービスの最前線に配置され、市民生活を根底から支える。

 大阪市の下水道事業は1894年の近代下水道事業着手から130年近い歴史を有し、技能・ノウハウの積み上げと継承が図られている。しかしながら、施設は老朽化が進み、「水が漏れる」「機器が破断する」「電気が止まる」といった処理・排水機能に支障を及ぼすトラブルが幾度となく発生している。

 施設の更新の必要性は当然理解されているものの莫大な費用が障壁となり、どの地方公共団体もなかなか踏み切れないという苦悩を抱えている。可能ならばできるだけ長寿命化を図っていきたいのは当然だ。

 下水処理場には管路輸送を経て、水・物質が集まってくる。汚水だけではない。泥や砂といった土類や大きなごみ、ひどい時には家具や生活用品に至るまで、想像もしない物質が流れ込んでくる。このような非常に過酷な現実の中、長寿命化を図っていくことは高い技術力・スキルを有していなければ、到底実現できない。

 大阪市下水道130年の歴史の中で、市民が下水道システムを使えなかったことは一度もない。厳しい財政状況下の中で、「街を清潔にする」「街を浸水から守る」「街の環境を守る」といった下水道インフラのサービス水準を保ち、社会の高度化に対応して、高度処理やエネルギー・資源の創出といった新たな価値を生み出しているのは、現場の最前線に立つ職人たちが築き上げてきた高い技術力と豊富な専門知識、そして下水道サービスを停滞させないという強い信念を持ち続けているからだ。

 下水処理場や抽水所で働く職人たちは、どのような過酷な環境にあっても一切妥協しない。少しでも支障が出れば、市民生活に影響が出ることを知っており、常に緊張感を持って業務に向き合っている。下水道のプロとしての誇りとプライドを感じさせる。


現場最前線に立ち続ける

南部・設備管理課 山之内勝博技術担当係長

 住之江下水処理場で勤務する山之内勝博さんもその一人だ。山之内さんは高校卒業後、運送業に勤しんでいたが、大阪市都市環境局(現建設局)が現業職を募集していることを知り、転職を決断。もともと実家が営んでいた鉄工所が水処理機械や機械修理、メンテナンス業などを営んでいたことや、幼い頃から工作機械が身近にあったことから、機器類の集合体である下水道施設メンテナンス業務に興味を抱いたという。

 現業職として入局後、住之江、鶴町、北野の抽水所の運転管理に携わり、現在は住之江下水処理場の技術担当係長として、設備機器のメンテナンスを担っている。まさに20年以上現場最前線に立ち続ける職人だ。

 汚水処理や雨水排除のメインステージは下水処理場であり、抽水所だ。運転管理業務はもちろん24時間体制で、8時間ごとの3交代制。山之内さんは、運転設備の整備・保全を担当。常に設備の状態を監視し、問題が起きないように予防しつつ、故障などのトラブルに迅速に対処する。

 山之内さんの1日は、運転管理記録などの書類に目を通し、数値化されたデータをつぶさに確認することから始まる。その後、同じチームの職人とともに、処理場を動かす設備機器類の点検を行う。1日2回の点検がルーティンだ。「機器類を正常に維持し、運転業務を不備なく引き継ぐことが私たちの仕事」と高い意識で機器の点検に励む。

 とはいえ、設備は機械。機械は使えば使うほど劣化し、部品にも寿命がある。壊れてから直していては時間も費用も掛かる。下水処理システムは多くの機器類の集合体であり、各機器の機能が正常に働いてこそ、全体システムが機能する。仮に一つの機器でも支障を来せば、他の機器にストレスがかかり、システム全体のバランスが崩れる。最悪の場合を想定して、運転停止も視野に入れておかなければならない。そんなデリケートな機器群に対して、機械動作の音や振動幅の微妙な違い、匂いの違和感など設備機器の息づかいを、五感を働かせて一つひとつ丁寧に観察していく。

 不具合を見つけたら即座に対応。故障が起きてから対処すると、どうしても損失が大きいことから、定期的に部品交換を含め、予防保全を意識している。

 同社の職人たちは、故障、不具合発生時においても処理・排水機能の停止を防ぐことを要求される。設備機能を止めての対応は、処理・排水機能に影響が及ぶことから、運転しながらの対応に注力するも、最悪の事態を避けるために日常点検・簡易診断といった設備の健康状態を常に監視。トラブルになる傾向をつかみつつ、必要に応じて精密診断を行い、オーバーホールや定期整備につなげていく。

 また、ポンプ運転の誤作動や漏水、機器の破損が起きても、機器設置企業へすぐに修繕依頼せずに、止水や溶接、ごみの除去など極力直営対応に努めている。


「水」「空気」「油」を意識せよ

 山之内さんは大阪市奉職後、主に抽水所での運転管理業務を担当していたこともあり、ポンプ機能が正常に働かなければ、市民の生命や財産が奪われかねないという危機意識から、設備機器の健康状態には常日頃から目を凝らす。抽水所におけるメンテナンスの基本として、「雨水ポンプ管理運転時の吐出弁の開閉状態とともに、『水』『空気』『油』を常に意識せよ」と教えられてきたという。

 水は冷却水、空気はエンジン起動、油は潤滑油と燃料。これら一つでも欠ければ、排水機能は正常に働かない。施設としては大型であっても、一つひとつのパーツは非常に細かくデリケートであり、点検業務の責任は非常に重い。

 2020年10月、住之江下水処理場の前処理し渣搬送機のスクリュー部分が数カ所破断。前処理設備が使用できなくなる事態が発生した。

 同社は処理場内で工事を行っていた工事業者に応急復旧を依頼するも、破断箇所が複数あり、新品への交換を提案されたことから、長期間の処理機能低下を回避するため、現場判断で直営対応を決断。山之内さんら技術担当係が中心となって、応急復旧を手掛けることとなった。

 まず、し渣搬送機を水洗いで破断部を明確にした後、破断したスクリューをチェーンブロックなどで吊って搬送機としての設置状態をつくり、現場にて少しずつ溶接。搬送機を解体してからの溶接作業であれば長期間が必要となることから、搬送機構造を維持しながらの溶接作業に着手。20cm四方の極小スペースで軸心を微回転させつつ、破断部に熱を加えて溶接棒を溶かしながら慎重に部材を一体化。

 眩しすぎて結合部を肉眼で直視しにくい状況の中、ゴーグル越しにゆっくり慎重に確認しつつ、溶接棒を一定のリズムで規則正しく動かしながら溶接。溶接部の隙間を解消するために、添加材を補填した。視界不良の中でありながら、故障発生の翌日には応急復旧を完了。わずか1日で機能回復・運転継続に取り付け、最終的に搬送機更新まで約1年半もの間、運転継続を可能にした。


「この仕事が好きだから」

 維持管理の現場では、さまざまなことが発生する。24時間365日フル稼働していることから劣化は当然だ。各設備機器の流体通路として連結されている管路から、漏水は日常的に発生している。これらは大阪市の施設が特別に抱えている問題ではなく、全国的に維持管理の現場では同様の事案が発生している。

 こうした問題に対して、同社エンジニアたちはこれまでの経験や認識を用いて、極力内製化を図るべく、点検だけでなく修復技術の開発にも注力し、前進思考の維持管理を実装する。

 山之内さんは「私はクリアウォーターOSAKAに転籍することに迷いはなかった。この仕事が好きだから。上下分離方式により当社が発足したが、下水道の最前線に携わるものとして、設備機器の故障やトラブルに対して素早く対応できるようになり、仕事に取り組むモチベーションは確実に上がった。私たちは下水道システムを通じて市民とつながっている。市民の生活基盤を支える責任ある仕事につけている誇りを持ち続け、日々の業務に向き合っていきたい」と笑顔で語った。


記者の視点

 大阪市政改革の一環として、上下分離方式による大阪市下水道事業の経営形態見直しに伴い、大阪市100%出資の監理団体として設立した株式会社。その成り立ちから、「行政」と「民間」どちらの色合いが濃い企業なのか興味を抱きつつ、関係者の取材に当たった。

 そこから受けた印象は、どちらに偏るのでもなく、官民それぞれの体質が融合する唯一無二の「面白い会社」ということであった。社員は大阪市からの転籍組と出向者で大半を占めているが、民間企業や行政でキャリアを積んだ経験者が現場最前線に立つなど豊富な人材を抱えている。

 ただバラエティに富む人材を抱える企業であっても、「市民生活の根底を支える」という企業精神は全社員に共通している。それを体現できるのは、処理場や抽水所(ポンプ場)の現場最前線に立つ職人たちだ。まさに市民生活を支える職人たちの仕事ぶりは、大阪市下水道130年史を継承してきた「O&Мの匠」そのもの。下水道ユーザーである市民と直接、接するわけでもない。スポットライトが当たるわけでもない。しかしながら、一つひとつ丁寧に施設のヘルスケアに向き合う。五感を研ぎ澄ませて、設備の健康状態を見極める彼らの洞察力は、まさにプロ中のプロだ。彼らなくして市民の心理的安全性は担保されず、企業活動も成り立たない。

 普及からマネジメントに移行してきた日本の下水道事業において、彼らの持つポテンシャルは大阪市のみならず、関西地域、ひいては持続可能な日本の下水道にはなくてならない存在となろう。

 ただ、職人感覚に頼ってきた暗黙知が多く、なかなか形式知に転換しづらい部分でもあろう。しかしながら、これらが実現できれば、日本の下水道O&М環境は劇的に進化する。見えづらいものを見えるものにしていくのは難しい。しかし、彼らの持つスキルは下水道業界の経営資源だ。社会に精通した経営層と最前線の現場における緊密なコミュニケーションを通じて、これら資源を顕在化し、大阪、関西、日本の下水道の持続可能へ導いてほしい。

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