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株式会社 キッツエスジーエス

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小さな集落を「水」で救う

日々、オーダーメイドの小型浄水装置を設計する

若きエンジニアの‶使命〟と‶責任〟

 一人の青年がキッツエスジーエスの一員になって3年が経った。現在、エンジニアリング事業部エンジニアリング部水処理システム課に所属するその青年の名は中川滉貴さん。

 高齢化や過疎化が進む小規模地域に安全で衛生的な水を届けることにやりがいを持ち、地域によって異なるニーズに対応していくオーダーメイド小型浄水装置の設計に日々奮闘している。

 大学で電子情報システム工学を学んできた中川さんにとって、理系とはいえ浄水処理は初めて携わる分野であり、入社当初は不安で仕方がなかったという。では、中川さんはなぜ大学で学んだ知識を生かせる企業ではなく、同社の門戸を叩いたのだろうか。


〝水道〟インフラを担う企業

 キッツエスジーエスは1947年、彦根市で「清水合金鋳造所」として創業した。生活基盤の整備が求められていた戦後復興期において水道用バルブの製造に着手し、1957年には現在の原形となる「清水合金製作所」に改称。当初の鋳物製造から水輸送をコントロールする水道バルブの製造・販売へと事業を発展させ、今日まで日本の水道インフラ整備の一翼を担ってきた。

 1972年には日本水道協会の指定検査工場に、翌1973年にはJIS表示工場の認定も受けるなど品質の高さも相まって、1979年には製鉄プラント向け耐熱コントロール弁を開発し、産業用バルブ分野にも進出。1981年にはドイツのボップアンドロイター社と技術提携し、今や水道バルブの主流となっているソフトシール仕切弁の技術をいち早く導入。また、わが国では最も早くバルブ粉体設備を新設するなど技術志向の高い企業として水道インフラの根幹を支えてきた。

 そして1995年、バルブ大手のキッツグループに参画。調達力や品質管理体制が強化され、製品ラインアップの拡充や全国的な販売網の整備が進むなど大手グループの総合力を得て存在感を高めてきた。

 技術力と高品質の二軸で水道バルブ専用メーカーとして、国民生活に不可欠な水道インフラの整備に大きく貢献してきたが、さらなる飛躍に向けて、2002年にはバルブ事業に次ぐ第2の柱に育てるべく水処理事業分野に着手。「小さな集落にも安全で安心できる衛生的な水を供給していく」をコンセプトに小型浄水設備の製造・販売を手掛けている。まさに国民生活に不可欠な水道を中心とした水インフラ企業である。


安定から使命と責任へ

 中川さんが同社の門戸を叩いたのは、国民生活に不可欠な水道インフラを担うことから、経済情勢に左右されにくい〝安定〟した企業であること、そして生まれ育った近江地域で働きたいという願望が重なったことが決め手だという。第2次世界大戦後に確立された国際秩序がかつてないほど揺らいでいる昨今、〝安定〟が大きな判断基準になることは想像に難くない。

 中川さんが所属するエンジニアリング事業部は、メーカー機能だけでなく設置工事やアフターメンテナンスに至るまで事業領域を担う新しい組織だ。2025年に新設され、生産本部・技術本部・営業本部からメンテナンスエンジニア10人、設計エンジニア11人、営業スタッフ3人を含む総勢26人の少数精鋭で、定期的なメンテナンスが必要となる緊急遮断弁等の特殊弁や小規模浄水装置群のアクアシリーズを取り扱う。

 アクアシリーズは、小規模集落・専用水道向けに開発された浄水処理システムの総称で、沢水・河川水・井戸水など幅広い原水を、安全な飲料水レベルに浄化するパッケージ型浄水装置だ。限られた敷地でも設置できるようコンパクト化され、一般家庭用の電圧AC100Vで運転可能な仕様も取り扱う。製品は据置型のほか、過疎化の進行で将来の施設廃止時に移設可能な可搬型があり、高性能かつ可搬式の「移動できる浄水場」として注目されている。

 さらにあらゆる原水に対応できるよう水質に合わせてオプションユニットを組み合わせるカスタマイズが可能。処理方式は、滅菌処理のみでは対処できないクリプトスポリジウム、ジアルジアなどにも対応できるようMF膜処理、UF膜処理、紫外線処理など確実で安心な処理ユニットをラインアップ。これら全て無人化による全自動システムで構成されており、技術者不足でも実施可能なメンテナンス軽減化を実現する小規模地域に優しい浄水処理装置である。

 現在までに、全国の小規模地域で300台以上を配置。中でも災害時の水供給に大きく貢献するアクアレスキューが多く活躍している。

 中川さんは、アクアレスキューなど浄水装置の設計を担う。CAD(Computerd Aided Design)を駆使して膜モジュールや配管類、電気制御など200点以上の部材を適正に配置し、地域の望む最適解の設備を設計。完成後には、自ら念入りに動作確認をこなすなど、水処理エンジニアとしての道を着実に歩んでいる。

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 一方、入社時には安定が大きなファクターであったが、日を重ねるごとに、水道という飲み水を供給し続けていく「使命」と「責任」を感じてきているという。「経験を重ねるごとに、絶対なくしてはならない『水』を届け続ける大切な仕事に携わっている責任を感じています。一方で、この会社でこの仕事に携われる誇りもあります」と穏やか表情の中にも凛とした目で語る姿には3年目とは思えないたくましさを滲ませる。

 まだまだ伸び盛りの3年目のエンジニアは「学ぶことが多い日々です。先輩方にはご迷惑かけっぱなしです」と謙虚に言葉を紡ぎつつも、「納期に間に合わせようと先輩や上司の方も忙しくされているのに、丁寧に指導してくれます。エンジニアリング事業部は営業スタッフとエンジニアが融合した組織ですが、お客さまのニーズに最大限応えるべく、皆が活発に意見交換するなど活気があります。早くその輪に入れるくらいの技術力を身に付けたいですし、施工現場での経験を早く積んで、直接お客さまの声を聞きたい」と意欲的だ。

 


「地域を救助(レスキュー)する」を合言葉に

 2002年に水処理分野を事業化した当初は、衛生工学を学んだエンジニアも少なく、営業体制も主力のバルブ営業の片手間程度であったことから社内でも肩身が狭く苦闘の日々を送ってきた。思うように採用が伸びない状態が数年続き、事業廃止も検討されたこともあった。ただ、地域住民の生活に不可欠な〝水道〟インフラの会社という誇りは持ち続け、今日までの四半世紀もの間、営業スタッフはもとよりエンジニアも全国の小規模集落を歩き回り、「お困り事」を聞きまわり、お客さまのニーズに応えるべく、腐らず諦めず技術を磨き続けてきた。

 いまや、地震や豪雨など自然災害が頻発している日本列島において、「地域を救助(レスキュー)する」を合言葉に過疎化や小規模化が進行する脆弱な地域に特化した同社のアクア事業は社会的に評価されてきている。採用に苦闘した日々から、繁忙期には2週間で1台のペースで製造しなければ納期に間に合わないまでに成長してきた。

 キッツエスジーエスがアクアレスキューをはじめとするアクア事業に注力するのは、安全で安心な衛生的な水を届け、都市部との格差が激しい脆弱な地域生活を守りたいという思いがあるからだ。〝安定〟を理由に水道インフラ企業の門戸を叩いた若きエンジニアの思いは「責任」と「使命」という“やりがい”に形を変え、その心に根付いている。「地域を救助(レスキュー)する」という誇り高きエンジニアの成長は、アクア事業の進化に欠かせない存在となろう。


記者の視点

 水道業界で認知されていた「清水合金製作所」から「キッツエスジーエス」に社名が変わるという歴史的転換期と同時に新設されたエンジニアリング事業部。メンテナンスエンジニアと設計エンジニア、営業スタッフの総勢30人弱で構成。主力事業である水道バルブの製造・販売とビジネス形態と異なり、緊急遮断弁などの特殊弁やアクアレスキューを中心としたアクア事業を製造・販売に施工・メンテナンスを加えた新たなビジネスモデルで事業展開を図る。彦根本社にある同事業部内では社員の議論の場も多く見られ、同社の企業理念である「水で社会に貢献する」を体現する少数精鋭の組織という印象を受けた。

 今回、入社3年目の若きエンジニアの1日に同行したが、上司・先輩を含めチーム全体で一人のエンジニアを育てながら、地域貢献していこうというチームワークを強く感じた。老朽化、人口減少、災害リスクといった日本の水道事業が直面する多様な課題はより深刻さを増してくる。国が進める分散型システムは、同社のアクア事業の追い風となろう。苦難の中も技術を磨き続け、信頼を得てきたアクア事業の四半世紀。これらを経営資源に地域を「救済」から「持続」に導く同社の次なる視線に期待したい。

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