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管清工業株式会社

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今を見つめて、未来を見据えて

管路管理の先駆者としての挑戦

管清工業株式会社取締役技術部長

飯島 達昭氏

管路スクリーニングが主流に

 現在、下水道管路の老朽化対策が喫緊の課題となっている。総延長約48万kmのうち、約2.2万kmが標準耐用年数を超過した老朽管路とされており、これらストックの状態を把握するため、自治体では専門業者に委託し、管内調査が進められている。ただ、この膨大なストックを一つひとつ事細かに調査するには相当の時間と費用を要すため、近年ではスクリーニングと詳細調査を組み合わせた手法が主流になりつつある。

 管路スクリーニングとは、広範囲の管路の劣化状況を大まかに把握することで、速く、安価に、対応を要する箇所を発見し、維持管理の効率化を図るものである。管内の異常箇所を一つひとつ精査し記録する詳細調査を目的とした従来のTVカメラ車が日進量200~300mなのに対し、スクリーニング調査は日進量1kmほどと、広い範囲を効率的に調査することで詳細調査の対象範囲を絞り込むことを目的としている。

管口カメラ操作

 このスクリーニングという概念が一般的に認知されるようになったのは、国主導の下、官民共同で進められた下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)の平成25年度採択案件「管口カメラ点検と展開広角カメラ調査及びプロファイリング技術を用いた効率的管渠マネジメントシステムの実証事業」がきっかけとのこと。

 管清工業、日水コン、八王子市らが共同提案したもので、実管路をフィールドにスクリーニング技術として管口カメラの有用性などが検証された。

 この実証では、小口径管における管口カメラを用いたスクリーニングの有用性が明らかになった一方で、管口から距離が離れると異常箇所の視認性が低下するなどの課題が認識されており、これが新たな製品開発の着想を得るきっかけともなった。

 管路管理のリーディングカンパニーである管清工業では、管口カメラで得られた知見や課題を踏まえ、スパン全体を網羅的にカバーできるスクリーニング技術の実用化に向け、開発プロジェクトに着手。平成25年に、新たな製品設計思想を取り入れた簡易直視型自走式カメラシステムである「KPRO」を開発・実用化した。


新発想のスクリーニング技術

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  • KPRO
  • KPROキャプチャ画像

 KPROは、日進量の飛躍的な向上、管内の網羅的な把握をコンセプトに開発した次世代型スクリーニング技術で、平成26年に実施した仙台市との共同研究において効率性を実証した。電源供給はバッテリー方式を採用、管内映像の記録はカメラ車本体に据付けた記録媒体に保存する方式を採用するなど、ケーブル類を廃した完全独立駆動とした。

 管内を一定速度で停止することなく、直視映像を撮影しながら走行するのみで、現場での映像確認は行わず、事務所で劣化判定を実施する。標準日進量は800m、条件が良ければ1500mに達することもあるとのことで、調査延長は昨年11月時点で延べ2000kmにも達している。今や管路管理の最前線で欠かせない技術の一つとして広く認知されている。

 適用管径は150~450mmと小口径に特化しており、S・M・Lの3機種を用意。Sサイズが150~200mm、Mサイズが250~300mm、Lサイズが350~450mm。Lサイズについては車軸を延長することで、700mmまで対応が可能である。

KPROフィールド試験

 基本的に管径800mm以上の大口径管は、作業員による潜行目視が基本であるため、KPROのラインナップは、当初は700mmまでとなっていた。しかし大口径管は、24時間を通じて水位が高く流速も早い路線が多く、潜行目視や自走式カメラ等の既存調査機器の使用が難しい、いわゆる調査困難箇所が数多く存在している。

 また、ゲリラ豪雨による増水や管内で発生する硫化水素ガスなど危険も多いことから、作業員の安全を確保しつつ幹線全体を調査できる技術が現場で求められていた。


調査困難箇所に特化、Ftype開発

 管清工業ではこうした新たなニーズを受け止め、平成28年ごろから大口径管路における調査困難箇所への適用をテーマに定め、開発プロジェクトを再始動。既存の概念にとらわれない柔軟な製品設計により、船体型による水面浮上方式を採用した新たなKPRO(Ftype)を考案した。

KPRO(Ftype)

 動力部を廃した水面浮上式により最低水深が10cmほどあれば流下を可能としており、機器本体には市販の小型高解像度カメラと防水ライトを備えた構成。従来のKPRO同様に外部電源などは不要だ。命綱ロープで速度調整を行いつつ、流下しながら管内状況を撮影する。管内作業は最小限とし、作業員の安全衛生にも十分配慮した。

 この標準型基本仕様(管径800~2500mmに対応)に加え、土砂堆積物が多い管きょや狭小管きょ向けの小型仕様、管径4000mmまでをカバーする拡張仕様、複数箇所のカメラにより精度の高い映像撮影を可能とした延伸仕様、管頂近くまで水深のある調査困難箇所に対応した薄型仕様、浮き輪状の船体で投げ込みを想定した円盤仕様など船体のバリエーションは豊富。特殊な現場条件の場合は、その都度、カスタマイズして対応することが可能だ。

 全国有数の点検調査会社として誰よりも現場の実状や課題に向き合い、それを技術開発へとフィードバックする体制が整備されている、現場・技術開発のベストミックスが同社の強みであり、まさにKPROシリーズはその理念を体現した技術といえる。


さらなる高みを目指し

 管清工業では、さらなる技術の改良を図っており、KPROについては作業員がマンホールに入ることなく調査ができる機器を開発中とのこと。また、日進量についても、現行の800~1500mを飛躍的に延伸すべく、日夜開発を進めている。

 KPROは、個別の業務受託だけではなく、管路の包括的民間委託を受託した際に、ストックマネジメント計画を策定・改定するための現状把握のための調査業務での活用を想定している。

 同社の飯島達昭取締役技術部長は「今後は複数の行政エリアをまたぐ管路包括の受託も増えてくることが予想される。その際は、調査エリアも広くなることから、効率的な業務を行うためには、日進量3000mという目標を引き続き堅持し、これを実現していきたい」と述べる。

 この日進量3000mの目標を達成するには、複数スパンの連続走行が目下の技術課題だという。また、大口径対応のKPRO-Ftypeについても命綱をつけることなく、複数スパンを連続して流下し、最下流で回収することができれば、日進量の飛躍的な増加が可能となる。いずれもマンホール蓋を開いて作業する回数が減るので、作業員の負担の軽減にもつながる。


日進量向上へAI活用も

 日進量の向上に向けてはハードの改良だけでなく、ソフト面でのアプローチも重要となる。ネックとなるのが点検・調査データを基とした報告書の作成作業とのことだ。管内調査後の記録映像を元に劣化判定を行う際、事務所で作業員が異常箇所を一つひとつ判断するため、日進量が増えるほど作業が逼迫することになる。

 また、異常判定は作業員ごとの定性的な感覚に左右されやすく、ヒューマンエラーも生じやすい。そこで管清工業では現在、スクリーニングで撮影した画像をAIで自動判定する画像認識システムの実用化にも取り組んでいる。これが実現すれば煩雑な報告書作成作業の効率化と均質化に大きな成果が得られると見込んでいる。管路管理も時代は省力化、AI活用へと進んでいく、その道標を同社が示していく。

 飯島氏は「AIに教師データを与え続ければ判定の精度も向上すると当初は思っていたが、これがなかなか難しい。現在は模索段階であり、道半ば。日進量3000mの目標到達に合わせ画像認識システムの確立は成し遂げなければならない」と意気込む。

 「今あるもの、目の前の事象だけをベースに今後の展開を考えても限界がある。まずは、『こうあるべき』という理想を掲げ、その高みに到達するには現時点で何が必要かを考えて取り組むことが、管清工業の技術開発の基本。個別の目標を定め、それをクリアすれば次の目標が見えてくる。個別の目標を次々とクリアすることで最終的な目標に到達する。AI以外にも、世の中全体で技術が進歩しているので、管口カメラのコンセプトをKPROに取り入れたように、世の中の技術をうまく活用していきたい」と語る飯島氏の姿に、管路管理分野のリーディングカンパニーとしての矜持が見えた。


記者の視点

 平成24年の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を契機に、社会の動向はインフラメンテナンスに舵を切り、下水道においても今後増大する老朽管への対処をはじめとする管路マネジメントの機運が高まった。そこから平成27年の下水道法改正を経て、計画的な点検・調査、修繕・改築サイクルの実践、つまりストックマネジメントが強く求められている。整備促進から維持管理起点へと、時代は大きく転換している。こうした潮流は、創業以来、管路メンテナンスの重要性を常に訴えてきた管清工業の姿勢に、ようやく時代が追い付いてきたものといえる。しかし同社は常に先を見据え、現状に満足することなく新たな目標を掲げて、技術開発にまい進している。

 「技術開発には失敗はつきものだが、やらない失敗よりもやった失敗を良しとするチャレンジの気概が社風」と語る飯島氏。「究極的には、機械自身が判断して管路の清掃・調査を行うお掃除ロボット的な技術が理想。一朝一夕には無理かもしれないが、『できない』と諦めてしまうと絶対にできない。トライアル&エラーを繰り返しながらでも、着実に前に進んでいく」との言葉に、同社の「今」を注視することで、日本の管路マネジメントの「未来」が見えてくるのではないかと感じた。

 昨年11月末に出版された「地下の勇士たち」(発行:幻冬舎メディアコンサルティング)には、飯島氏が下水道の維持管理を志して同社に入社し、技術開発に携わった経緯、時代に先んじ業界をけん引する仕事を行うに当たっての根幹となる考えも記載されている。また、同書には飯島氏以外の約20人にわたる社員も登場し、それぞれの拠って立つところ、仕事を行うに当たってのマインドがインタビューとして紹介されており、社員と同社の頼もしい信頼関係も感じることができる。技術開発や先見の明だけではない、社員が会社への信頼をバックボーンに各自の責務を果たすといった社風が、未来を切り拓くと実感した。

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