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管清工業株式会社

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「300年企業」に込めた思い
トップランナーが見つめる未来

管清工業代表取締役

長谷川 健司氏

 管清工業は昭和37年の創業以来、下水道の管路管理を担うことで公衆衛生の向上、都市の発展を支え続け、今年10月4日で60周年を迎えた。

 管路管理のリーディングカンパニーとして創成期を築いてきた2代目社長・長谷川清氏からバトンを引き継ぎ、長谷川健司氏が3代目社長となって24年。トップランナーとして業界の発展に奔走する一方、管路管理業の社会的地位向上へ新たな風を吹かせてきた。

 エッセンシャルワーカーとしての管路管理業の進化をどう導いていくのか――。長谷川健司社長へのインタビューを通じて、同社における未来を見据えたさまざまな取組みを紐解いた。


SDGsのど真ん中

 近年、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など大規模な災害が各地で発生し、都市機能の生命線である管路施設の重要性が改めて浮き彫りとなった。同時に、新型コロナウイルス感染症の流行によって、最低限の社会インフラ維持に必要不可欠な労働者を指す「エッセンシャルワーカー」という言葉があちこちで聞かれるようになった。

 長谷川氏は「エッセンシャルワーカーと聞くと、多くの人は医療従事者やごみ収集に携わる人を指していたが、これを機に堂々と『下水道の仕事はエッセンシャルワーカー』であると伝えることができた。コロナ禍においても何も変わらず現場は動いていたからこそ、その重要性も知ってもらえたのではないか」とコロナ禍における管路管理の価値を振り返る。

 また、近年は下水道分野に限らず、国連の持続可能な開発目標(SDGs)について話が及ぶことも多い。

 SDGsのゴール6「安全な水とトイレを世界中に」の中には、「2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす」というターゲットがあるが、管路管理業は公衆衛生を守ることが目的。「SDGsを掲げなくても当社は業としてずっとSDGsの活動を行っている。まさにSDGsのど真ん中にいる」と、これまでもこれからも不変である管路管理業のあり方を示す。


定石を外す

 これまで同社は、調査・清掃機器の研究・開発や出前授業の実施、トイレのネーミングライツ事業など多方面から管路管理業の発展、社会的地位向上に向けて、積極果敢に取り組んできた。

 その成果は社会的にも認知され、平成21年に出前授業の取組みが第1回国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」サスティナブル活動部門、平成30年に管きょスクリーニング調査機「KPRO」が第11回国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」アセットマネジメント部門、平成28年に大口径管調査機「グランドビーバー」が第14回勇気ある経営大賞優秀賞(東京商工会議所)を受賞。社会的評価を得ると同時に業界の進化を先導してきた。

第1回国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」サスティナブル活動部門を受賞

 長谷川氏はたびたび、「300年企業を目指す」という言葉を口にする。すでに100年以上営んでいる企業ならともかく、昭和時代に創業された企業経営者は100年企業へのアプローチを意識するのが定石だ。ところが、同社は創業60年を迎えたばかりにもかかわらず、途方もない目標を掲げる。

 300年企業となる240年後は、たとえ医療が急激に発達したとしても現在の社員は誰も生きていないであろう。にもかかわらず、なぜ「300年」という数字を掲げるのか――。清氏から社長業を引き継いでから今日まで四半世紀の取組みを紐解く中で、途方もない目標を掲げるその姿こそ、トップランナーの所以であるということがわかってきた。


出前授業から学んだこと

 長谷川氏は、下水道事業に広報の重要性を根付かせた第一人者だ。技術が発展し、安全な作業環境が実現しても、「きつい」「汚い」「危険」のいわゆる「3K」と誤解され、エッセンシャルワーカーであるにもかかわらず、建設中心の下水道事業の中で管路管理業の認知度が低かったことも無関係ではなかったであろう。「広報は事業を理解してもらうために必要な最初の段階。下水道事業に携わる者にとって一番大切なことは広報活動である」と繰り返して発言してきた。

 長谷川氏はもともと、前向きな提案には理解が深く、判断・決断・行動が非常に速い。その言葉通り、平成19年4月、同社のCSR部門として、出前授業を専門的に行う「管路管理総合研究所」を設立。設立から1カ月後の平成19年5月から小中学校などの教育機関を対象に、民間企業として初めて出前授業をスタートさせた。今日まで10年以上、派手さを求めず地道な広報活動を続け、今年6月、全都道府県で授業を実施するまでに至った。長谷川氏の考える広報活動は、事業を理解してもらうための単なる発信活動ではない。コミュニケーションを大切にした広報である。

 過去には自ら出前授業の講師を務めたこともあった。その時の印象的な出来事としてある女子校でのエピソードを挙げる。出前授業を始めた当初は、水循環についてリアルに伝えたいという思いが強すぎて、「皆さんが飲んでいる水のもとをたどれば、実はクレオパトラのおしっこかもしれない」と話したそう。すると、学生たちは想像以上に驚き、少し引いてしまったように見えたという。この光景を目の当たりにしたことで、「相手に寄り添った伝え方をしなければ、本当の意味で伝えることはできないと思った」と話す。こうした経験から、出前授業を担当する社員には「下水道について勉強しなくていい」と伝えている。この言葉の裏には、「専門家になると、学生からの素朴な疑問に素直に答えられなくなってしまう」という思いが込められている。

 また、ある授業で、「髪の毛や食べ物、油を下水道に流してはいけない」と伝えた。ごく当たり前のことを説明しただけだが、学生から「ならばトイレで嘔吐してはいけないのか」と逆に問われたそうだ。これに対し専門家であれば、どう回答すればよいかあれこれ考えてしまいがちだが、その授業を担当した社員は咄嗟に、「気持ち悪くなった時は気にしないで吐いていいんだよ」と答えたという。このエピソードを聞いた長谷川氏は、「知識の押し付けはいけない」と、その社員の対応を高く評価すると同時に、出前授業を単なる説明の機会ではなく、コミュニケーションから学びにつながるよう、もっと進化させていかなければならないと実感したという。

 「出前授業をしたからと言って、すぐその場で下水道の大切さを理解してもらおうとは思っていない。大人になった時にふと思い出して、『汚れた水をきれいにするには多くの人が関わっている』『下水道管を維持することにはお金がかかる』、そういったことに目を向けてもらえるように貢献していきたい」と焦ることも、凝り固まることもない。こうした地道ながらも小さな進化を続けていく柔軟な発想が、今日に至る同社の確かな基盤を築いているのだ。


「厚木の杜」という場所

 未来を見据えた取組みは、出前授業だけではない。まさに60周年を迎えた今年、厚木市内に敷地面積約1万坪の研究開発施設「厚木の杜 環境リサーチセンター」をオープン。施設全体を災害対応施設として位置付け、非常用発電機、井戸、仮設マンホールトイレを備えるなど、地域の防災拠点としての機能を大切にしている。

 災害を切り口に、広報的な視点も兼ね備え、災害時の避難場所・支援ベースキャンプ、下水道の未来に向けた研究・技術開発と歴史紹介、自然と触れ合える場所の提供という三つの役割を持つ。敷地内には、下水道の歴史が学べるミュージアム「長谷川記念館」、直径1500mmの下水道管の中を探検できる施設や森の中を散策する遊歩道、ビオトープが整備されるとともに、管路管理における研究開発や技術向上を目指したトレーニングを行うことができる環境となっている。まさに管路管理のイロハから夢まで、何もかもが詰まっている施設なのである。

 これだけでも十分すぎるほどの社会貢献なのだが、長谷川社長が目指す先はこれだけではない。令和6年には、「厚木の杜」敷地内に本棟の建設を計画。本棟には、これまで培ってきた管路データを整理した「下水道管路情報センター」を構築する。この情報センターでは、調査・点検、清掃、補修・修繕など同社がこれまで取り組んできた実績を詳細にデータベース化。災害など不測の事態が起きた際にも現場と遠隔でこれらのデータを共有し、迅速な復旧を可能にするといったWebインフラの最先端施設の構築を進めるのだという。

 「厚木の杜」は、防災拠点という十分すぎる役割を持ちながら、広報、研修、研究、そして、情報というさまざまな側面から管路管理にアプローチし続ける。広大な敷地を余すことなく生かし、来年、10年後、そして、100年後にどのような姿を見せてくれるのだろうか。


記者の視点

 常に新たなことに挑戦し続けてきた管清工業。しかし、新たなことばかりに目を奪われるのではなく、現業第一の姿勢を崩さず、その姿を業界内外に示してきた。まさに人知れず、SDGsのど真ん中を歩き続けてきた。

 そして、出前授業のようにすぐに効果が発現するわけではない取組みを継続することは容易ではない。管路管理という60年にわたって築き上げてきた生業を何よりも大切にするとともに、時代をとらえ、次世代へつなぐ新たな変化を生み出すその姿は、まさに「不易流行」そのものである。

 同社のあり方は、現状に甘んじず、攻めの姿勢のように感じられることも多いが、管路管理の本質からぶれることなく、不変すべきものには頑なまでに動かない。一方で、攻めが必要と判断した場合は、果敢に攻めに転じる。投資にも積極的だ。長谷川社長は、「300年企業という言葉には、目先のことだけにとらわれないでほしいという思いを込めている」と話す。「管路管理の本質は不変」「目先のことだけにとらわれない」という、攻めと守り両輪を兼ね備えた企業であり続けるからこそ、その姿は業界内外へ影響を与え続けるのであろう。

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