管路管理のトップランナーである管清工業。国内での実績は言わずもがな、今後は、東ティモールにおいて、産業・雇用の創出に向けた人材育成に取り組むことを明らかにした。
日本においては、なかなか馴染みのない国である東ティモール。同社の取組みは、アジアで一番新しいこの国に一体、何をもたらすのか。管清工業常務取締役の鈴木正二氏に、新たなステージへと歩みを進める同社の次なる挑戦について話を聞いた。
培った知識と経験で描く 東ティモールの新たな姿
管路管理のトップランナーである管清工業。国内での実績は言わずもがな、今後は、東ティモールにおいて、産業・雇用の創出に向けた人材育成に取り組むことを明らかにした。
日本においては、なかなか馴染みのない国である東ティモール。同社の取組みは、アジアで一番新しいこの国に一体、何をもたらすのか。管清工業常務取締役の鈴木正二氏に、新たなステージへと歩みを進める同社の次なる挑戦について話を聞いた。
管清工業は今年4月、CWP GLOBAL株式会社(CWPG)、東ティモール民主共和国の国立職業能力開発センター(CNEFP-Tibar)とともに、東ティモールにおける産業・雇用創出に向けた技術人材を育成することで合意した。
CWPGとは、一体どのような会社なのか――。
その源泉となったのが、2021年に福井県大野市で誕生した一般社団法人CWPである。CWP、CWPGともに代表は、2016~2018年まで同市の副市長であった今洋佑氏が務めている。
CWPは、水資源が豊富な大野市において、「Carrying Water Project」としてスタートし、「水のがっこう」「水をたべるレストラン」「水への恩返し」を主な活動内容として、水を軸とした地域活性化に取り組んできた。また、海外での活動として、東ティモールの村部に安全な水を届けるため、山の上に6基の重力式給水システムを設置し、村の集会所や学校に水道を整備するといった支援を行いながら、同国の水環境を取り巻く課題に対して、さまざまな事業活動を展開している。
鈴木氏によると、「当社がCWPの理念や活動に賛同し、昨年8月にCWPGが生まれた。設立に当たっては、当社が80%の出資を行うとともに、今後5年間にわたって運営資金を負担する」という。
また、「CWPGは、CWPにおける海外展開を本格化するために設立された株式会社。世界の水環境を支援するという壮大なビジョンを掲げた上で、まずはすでにCWPが進出している東ティモールにおいて活動を行うことにした。その上で、水道に関してはCWP、下水道に関しては当社の経験とノウハウを相互に生かすことが理想」と東ティモール進出の経緯を語る。
CWPG設立後の2022年9月と2023年3月には、CWPGと管清工業の視察団が東ティモールへ渡航。鈴木氏も同国に足を運び、現地調査をはじめ、現地の子どもたちへ水の大切さを伝える授業の提供、政府機関らと今後の事業について相互協力の確認を行った。
同国は、2020年の世界のビジネス環境ランキングにおいて、190カ国中、181位。鈴木氏は「東ティモールは独立して約20年というまだ若い国で、人口比率においても若年層の割合が多い。しかし、産業が少ないため、仕事もなかなか見つからない。貧富の差が少ないこともあり、治安は良いが、産業の発展性を感じる国や企業が少ないのか、なかなか他国が参入してこない」と同国の印象を語る。
また、水環境や衛生については、「下水道はもちろん、水道すら十分に整備されていない。ペットボトルやゴミを川にそのまま捨てていることも多く、首都・ディリ周辺の海は汚れている。一般家庭は肥溜めのようなトイレを利用している状況で、トイレットペーパーもなく、水桶から水を汲んで、お尻を流すようなイメージ。正直なところ、大使館や空港ですら、トイレが詰まっている場合もあり、決してきれいだとはいえない」と率直な感想を述べた。
視察団による2度の渡航を経て、2023年4月、管清工業、CWPG、CNEFP-Tibarは、3者が協力し、同国の上下水道インフラ管理を担う人材の育成を手掛けることで、同国の水環境改善や雇用の創出につなげることを目的に、「東ティモールにおける産業・雇用創出に向けた技術人材のための能力開発プログラム」について覚書を調印した。
調印式で、管清工業の長谷川健司社長は「日本で長年、管路管理に携わってきた立場として、管理の視点で考えられる技術者育成をサポートしたい」、CWPGの今社長は「上から目線ではない活動を育てていきたい」と意欲を示した。
これに対し、CNEFP-Tibarアルセーニョ管理本部長は「われわれは今、メンテナンスに関する知識を必要としている。知識を学び、シェアする機会をいただいて感謝している」と今後の連携に期待を込めた。
調印式には、来賓として、駐日東ティモール全権大使 イリディオ シメネス ダコスタ閣下も出席し、3者による連携が決して一方的な支援ではない共存共栄のプログラムであることを強調するとともに、「わが国と日本の新たなステージの扉が開いた」と喜びを表した。また、調印式後には、イリディオ大使が国土交通省を訪問し、今後、3者の連携による人材育成を進めていくことを伝えた。
覚書の調印を経て、今後は、東ティモールで職業訓練を受けている若手技術者を受け入れ、管清工業が所有する施設「厚木の杜環境リサーチセンター」での研修などを通じ、技術を習得、そこで得たノウハウを自国に持ち帰り、水インフラの維持・改善や衛生環境の向上を図ることが決まった。これに先立ち、4月の調印式後、CNEFP-Tibarのアルセーニョ管理本部長らが同センターのほか、管清工業が業務を担う管路管理の現場を視察した。
実際に、今冬から2カ月間、CNEFP-Tibarの学生2人を受け入れ、厚木の杜環境リサーチセンター等を活用し、集中研修を実施する予定だ。その後、年明けには、管清工業の社員が現地へ赴き、管やトイレの詰まりを解消する技術をはじめとする現場での実践に向けた第一歩が始まる。偶然にも、数年以内にはアメリカによる首都・ディリ市内の下水道整備への支援も始まるという。
鈴木氏によると、東ティモールでは仕事が少ないことから、意欲が低くならざるを得ない若者も多いという。こうした現状を踏まえ、「われわれは、東ティモールにおいて、人を育て、産業を創ることを目的としている。そのために、現地の人に技術を教え、最終的には彼らが自ら起業し、産業を創り、育てていってほしい」と同社が目指す未来を語る。具体的には、まずCWPGの現地支店で雇用し、経験を積み、そこから自ら起業する、もしくは日本での就職を希望する場合は、管清工業で採用することも想定している。
また、彼らに対し、〝水道は生きるために必要。下水道は死なないために必要〟と水と衛生の本質を伝えることで、水道だけでなく、下水道のことも考えた上で、インフラ整備をしなければならないと伝えるとともに、水インフラの必要性、そして、水インフラの仕事に携わる誇りを持てるような意識付けにも努めているという。
現在、東ティモールにはCWPGの現地支店があり、社員1人が常駐。管路管理に特化した人材の育成に限らず、小さなところからさまざまな変化を生み出そうとしている。
国民のほとんどがキリスト教である同国では、十字架は貴重なものとして位置付けられている。この特性を捉え、まずは、CWPGが十字架を製作し、販売。その後、徐々にノウハウを現地の若者に伝え、いずれ事業に成長させるというモデルもその一つだ。このほか、移動図書館を実施するなど、現地の教育水準向上にも一役買いたいと考えている。
また、CWPGの現地支店に、バキューム車や高圧洗浄車を輸送することを検討中。輸送費や輸送方法にもよるが、これが可能となれば、こうした作業車を用いて、川や側溝の清掃を行うとともに、技術継承にもつなげていきたいという。
「われわれは、東ティモールという国に支援するのではなく、あくまで住民への直接支援という視点を大切にしている。いつまでも支援ができるわけではない。覚書の期間は5年間。ひとまずこの5年間という期間の中で、雇用の創出や経済の活性化、自立的な水インフラの維持管理環境の構築を目指していきたい」と同社ならではの支援のあり方を明確に示す。
なお、この取組みは9月1日に発表された、令和5年度(第16 回)国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」のイノベーション部門を受賞している。
同賞は、平成20年度の創設以来、健全な水循環、資源・エネルギー循環を生み出す21世紀の下水道のコンセプト「循環のみち下水道」に基づく優れた取組みにを表彰してきた。社会経済情勢の変化に対応し、多様な面から社会に貢献した優れた事例を表彰し、広く発信することで、受賞者の功績を称えるとともに、これらの好事例が水平展開することで、全国的に「循環のみち下水道」が実現することを目指している。
管清工業はこれまで、出前授業の取組みで平成20年度(第1回)国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」サスティナブル活動部門、管路スクリーニングカメラシステム「KPRO」の開発で平成30年度(第11回)国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」アセットマネジメント部門を受賞している。
2002年に独立した東ティモール民主共和国。インドネシア東部に位置するティモール島の東部にあり、人口 約134万人、国土は1万4900㎡で、東京・千葉・埼玉・神奈川の4都県の合計面積とほぼ同じ大きさである。
公用語は、テトゥン語およびポルトガル語。実用語として、インドネシア語および英語が使われているほか、その他30以上の地方言語が使用されている。宗教は、国民の99.1%がキリスト教(主にカトリック)を信仰している。
かつては、ポルトガルの植民地だったが、ポルトガルが主権を放棄した後、インドネシアが事実上、東ティモールを併合。しかし、その後も独立を求める声は止まず、2002年5月20日に独立を果たした。日本は、東ティモールに対し、国づくりに対する支援や活発な要人往来を基に友好関係を築き、独立後には同国を国家承認し、外交関係を樹立。首都・ディリに大使館を開設している。
同国の主要産業は、農業。輸出用作物としては、特にコーヒーの栽培に力を注いでいる。石油やガスなどの天然資源はあるものの、精製技術がないため、オーストラリアなど他国に依存していることが課題となっている。
管清工業はこれまで、出前授業などを通して、国内で下水道の啓発活動を行ってきた。同社は、管路管理のパイオニア、そしてトップランナーとして、今や国内でその地位を確立。その中、CWPとの出会いから、次なる社会貢献の舞台として、東ティモールを選んだ。
この取組みは一見、東ティモールだけに利があるように見える。同社の長谷川社長も覚書調印式ではっきりと「この取組みをビジネスとしては考えていない」と話していた。しかし、駐日東ティモール全権大使が話したように、これは一方的な支援ではない。あくまで共存共栄のプログラムだ。
鈴木氏曰く、東ティモールでは〝何もないからこそ、いろいろなことが経験できる〟。社員を現地に派遣することで、技術力の向上につながり、応用力や発想力が磨かれるという。そして、他国がビジネスを展開しないほど小さな国であることは理解した上で、「だからこそ、われわれのやっていることの波及効果が見えやすく、面白い」と笑顔を見せる。
管清工業の東ティモールでの挑戦は始まったばかりだ。しかし、同社がこれまで国内で培ってきた経験とノウハウ、そして、創業時から変わらない市場を創るというマインドがあれば、きっと未来は明るい。同社がこの事業に懸ける想いは並大抵のものではない。これからどんな化学反応が起きるのか――。変わりゆく東ティモールの新たな姿とともに、さらなる進化を遂げるであろう管清工業の未来が今から楽しみでならない。
1962年(昭和37年)管清工業株式会社は誕生しました。
以来、約60年にわたり、一貫して「管」(パイプ)の維持・管理を行い、日本の下水道インフラを支えてまいりました。
下水道の管路網を専門的に管理、清掃することが当社の社名=管清工業の由来となっています。まさに「名は体を表わす」という言葉を自負しています。
創業以来、ずっと変わることのない思いは、「市場は自分で作り同業他社と共に開拓していく」こと―――。社員は1から2を生むのではなく、0(ゼロ)から1を生むことに力を注いでいます。創造し、多様なインフラの価値を創り出してきたのです。
下水道は今や、この現代社会では欠かせない存在となりました。例えば、震災時にトイレが使えなくなると途端に不自由な生活を強いられます。また、下水はウイルス発生の予兆を知る事が出来ると言われています。現代に生きる我々には、もはや当たり前の存在とし、流れを止めることの出来ない重要なインフラと位置づけられているのです。
さらに、私たちはこの下水道を通じ環境教育の一環として、全国の学校に訪問し下水道の「出前授業」を通した啓発活動を行っています。子供たちに、美しい環境を残していくことが我々の大きな役割だと考えています。そして、その使命を胸に、日本全国でより良い生活環境を創出するために、管清工業株式会社は24時間365日稼働し、常に社会基盤を支えているのです。
美しい地球のために―――我々と一緒に、未来の地球環境を創り上げていきませんか。
管清工業がある世界