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管内調査技術50年

「見る」から「診る」、そして社会への「見える化」へ

管清工業管路管理総合研究所兼技術開発推進事業部顧問・飯島達昭氏

 地下に張り巡らされた地上からは見えない下水道管の内部を、いかに安全かつ正確に把握するか――。

 管清工業がTVカメラによる管内調査に乗り出してから半世紀。白黒の直視式カメラから自走式カメラ、スクリーニングカメラ、ドローンへと調査技術は大きな進化を遂げてきており、デジタル化された映像や調査データのAIによる分析等も現実のものとなりつつある。

 一方、八潮市の道路陥没事故を契機に、限られた人員・財源の中でリスクに応じて調査対象を絞り込み、必要な対策につなげる管路マネジメントの重要性は一段と高まった。

 長年にわたり管内調査技術の変遷を見てきた管清工業の飯島達昭氏に、「見る」技術から状態を「診る」技術、さらに下水道のリスクと維持管理の必要性を社会へ「見える化」する時代へと進む管路管理の現在地と将来予想を聞いた。


TVカメラ黎明期から、大口径管の「No Entry」へと

 当社が最初のTVカメラ機器を購入したのは1974年です。翌1975年、団地開発で布設された新設管の浸入水調査で、初めてTVカメラ調査を受託しました。当時のTVカメラは国産の白黒式で、映像はオープンリールのビデオテープに記録していました。細い円筒形の直視式カメラで、アダプターを取り付ければ側視もできましたが、現在の映像と比べればかなり不鮮明なものでした。

 私が管清工業に入社した1982年には、1979年に発売された後継機が使われており、記録媒体はベータ方式のビデオテープに変わっていました。専用のタイプライターを使い、映像に文字情報を焼き込むことも可能になっていました。

 カラーTVカメラを導入したのも1982年です。当時、カラー映像で管内を見ることができる機器は大変珍しい存在でした。現在のTVカメラにつながる、自走機能とカメラの旋回による直視・側視機能を備えた機種が登場したのは1985年です。当社でもその後、このタイプを長く使用してきました。

自走式テレビカメラシステム「グランドビーバー」

 同じころ、小中口径管用TVカメラの技術を応用し、大口径管きょを人が入らずに調査する試みにも着手しました。TVカメラをボートに搭載し、管内を安全に調査しようという発想です。今日の「No Entry」に通じる考え方だったと言えます。1990年には舟型の「ビークル」を開発。1994年には、流量の多い幹線管きょでも調査できる後継機「ビーバー」を開発しました。さらに2007年には、流量の少ない大口径管きょを自走して調査する「グランドビーバー」、2009年には流量の多い管きょに対応する舟型アダプター「グランドビーバー・フロート」を開発しています。

 本管だけでなく、取付管の調査技術も大きく進歩しました。かつては、小型の円筒形カメラをガイドに収め、金属製ロッドを後方に継ぎ足しながら取付管の奥へ押し込んでいました。昔の取付管には施工状態が良くないものもあり、入れる時は簡単でも、引き抜く際にカメラが引っ掛かることがありました。カメラを回収するだけで1~2時間かかったこともあります。

 現在では、カメラ、ガイド、ケーブルなどをコンパクトに一体化した機器が普及し、本管用TVカメラと同様、管径や形状、現場条件に応じて多様な機器を選択できるようになっています。

厚木の杜環境リサーチセンターに展示されている下水道管路管理ヒストリー

「すべてを見る」から「絞って詳しく見る」へ

 管路調査を巡る考え方も大きく変わりつつあります。

管路スクリーニングに特化したカメラシステム「KPRO-M」

 2025年1月に発生した埼玉県八潮市の大規模道路陥没事故を契機に、国の検討委員会は「二つの『メリハリ』と二つの『見える化』」による管路マネジメントへの転換を打ち出しました。さらに、2026年7月に公布された改正下水道法等では、施設の安全性を評価する診断基準の法制化や、維持管理状況の公表などが盛り込まれています。

 限られた人員と予算の中で膨大な管路を管理していくには、全ての管路を同じ密度で調査するのではなく、リスクに応じて重点化することが欠かせません。そのための代表的な手法の一つが、管口カメラを用いたスクリーニングです。

 管口カメラ自体は以前から存在しましたが、私も携わった平成25年度のB-DASHプロジェクトでは、管清工業、日水コン、八王子市の共同研究体として、管口カメラによるスクリーニングと展開広角カメラによる詳細調査を組み合わせた管きょマネジメントシステムを実証しました。国土技術政策総合研究所(国総研)でも、管口カメラで大きな異状を発見した後、異状箇所を詳細調査することで日進量の向上と調査コストの削減を図る技術として整理しています。

 この時に採用した管口カメラは、長いポールによって約7mの土被りまで対応でき、強力な照明とズーム機能によって、条件が良ければ管口から30m程度先まで確認できる高性能なものでした。まずマンホールから管内を見て、異状が疑われる区間を絞り込み、その区間だけを詳細に調査する。こうした段階的な調査によって、長大な管路網を効率的に管理することが可能になります。

 これからの管路管理では、「全部を同じように調べる」のではなく、「どこを、どの程度まで調べるべきか」を判断する技術そのものが、ますます重要になってくると思います。


〝引っ張るカメラ〟からデータ連携へ――現場作業も一変

 機器の進歩に合わせて、現場技能者の仕事も大きく変わりました。

けん引式カメラ

 TVカメラが登場した当初は、高圧洗浄車などを使って反対側のマンホールまでワイヤーを通し、そのワイヤーに、スキッドと呼ばれる台に載せたカメラをつないで引っ張っていました。

 しかも、カメラを連続して走らせるわけではありません。少し引いては止め、映像を確認し、また少し引く。その繰り返しでした。昔の陶管は1本60cm程度と短く、現在と比べて継手の数が非常に多くありました。その継手を一つずつ確認し、さらに取付管や異状箇所も確認するため、30~40m程度の区間でも1~2時間を要することがありました。

 現在では、主にスクリーニング用途として、直進しながら直視画像を効率的に撮影するカメラも使われています。目的に応じて機器を使い分けることで、調査速度は飛躍的に向上しました。

 記録と報告書作成の方法も様変わりしました。

 私が入社したころは、VHSやベータマックスのビデオテープが記録媒体でした。発注者から「VHSで納品してください」「ベータで提出してください」と指定され、それに合わせて録画し、必要ならダビングして、紙の報告書と一緒にビデオテープを納品していました。報告書も、最初は完全な手書きです。その後、異状の種類やランクなどの頻繁に使う言葉は判子を作って押すようになり、やがてワープロ、パソコンへと移行しました。現在では、現場で取得した映像や調査データをデジタルで管理し、その情報を報告書作成まで一連の流れで処理できるようになっています。

 50年間で変わったのはカメラだけではありません。IoTやDXによって、撮影、記録、整理、判定、報告という調査業務全体が一つのデータフローとしてつながり始めています。


AIは人を置き換えるのか――まずは「判定支援」から

 当社では以前から、管内画像をAIで解析し、異状を判定する技術にも取り組んできました。ただ、現状ではすべての判定をAIに任せられる段階には至っていないと考えています。難しいのは、「見逃し」と「過検出」のバランスです。

 重大な異状の見逃しを極力ゼロに近付けようとすると、本来は異状ではない画像までAIが拾う割合が増えます。逆に過検出を減らそうと調整すれば、今度は本当に拾わなければならない異状を見逃す可能性が高まります。過検出が多ければ、結局はAIが抽出した大量の画像を人間が一つずつ確認しなければなりません。それでは、省力化というAI導入本来の効果が薄れてしまいます。

 海外を含め、高い自動判定率や省力化効果を掲げる技術もあります。ただし、対象とする異状の種類や評価条件、最終的に人間が確認している範囲などは技術ごとに異なります。単純に一つの数字だけで性能を比較することはできません。現時点では「AIか人間か」という二者択一ではなく、人間の判定をAIがどこまで支援できるかという段階にあると思います。

 一方で、人間の判定が常に一定かというと、そうでもありません。同じ異状画像を複数の調査技士が見ても、経験年数や、それまでに見てきた異状の種類、件数によって、ある人はAランク、別の人はBランク、さらに別の人はCランクと判断する場合があります。

 クラック一つを取っても、単純に幅だけを測れば終わりではありません。斜めに入っているもの、複数のクラックが重なっているもの、破損に近付いているものなど、周囲の状況を含めて判断する必要があります。そこには熟練が必要です。オペレーターの育成には時間がかかりますし、地域や会社によって経験する管種や施工条件、異状の種類も異なります。

 だからこそ、将来的にAIが一定の基準で安定した判定を行い、人間がその結果を確認する仕組みが確立できれば、大きな意味があります。AI技術がもう一段進化すれば、判定品質の平準化だけでなく、オペレーター不足への対応にも大きな効果が期待できると思います。


「No Entry」の次の壁――「見つけても直せない」

  • 中大口径用管路スクリーニングカメラ「KPRO-Ftype」(浮流式)
  • ファーストビューヘッド新型
  • 画像
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  • 中大口径用管路スクリーニングカメラ「KPRO-Ftype」(浮流式)
  • ファーストビューヘッド新型

 現在、ドローンや浮流式カメラなど、人が管内に入らずに点検・調査する「No Entry」の技術が急速に注目されています。しかし、ここには一つ大きな問題があります。「見つけた後、どうするのか」です。

 ドローンなどを活用すれば、これまで人が入らなければ確認できなかった場所でも、異状箇所を発見できるようになってきました。しかし、流量が多い。流速が速い。硫化水素が発生している。しかも下水を止められない。そうした厳しい条件の管路では、「異状は発見できた。しかし直せない」という事態が起こります。点検・調査のNo Entry化が進んだからこそ、その次にある修繕・改築をどうNo Entry化、省力化していくのかという課題が、より鮮明になってきたのだと思います。

 今回の改正下水道法等でも、下水道施設の構造について、点検だけでなく修繕・改築、さらに災害・事故時の応急措置のしやすさを考慮する考え方が盛り込まれました。つまり、これからは「調査できるか」だけではなく、「維持管理し続けられる構造になっているか」というメンテナビリティそのものが問われます。

 もう一つ忘れてはならないのが、現在の技術を使っても十分に調査できていない管路です。水量が多すぎる。水位を下げられない。ポンプを止められない。ドローンも浮流式機器も投入できない。そういう場所は確かに存在します。しかし、それを「できない」で終わらせてよいのかということです。

 大規模な道路陥没事故が起きれば、多くの市民生活に影響が及び、復旧にも莫大な費用がかかります。それを考えれば、仮設ポンプを大量に投入して水替えをするなど、相応の費用をかけてでも事前に状態を把握すべき重要管路は全国にあるはずです。その際に重要なのは、管路担当だけで考えないことです。ポンプ場や処理場の担当者も含めた「オール下水道」で取り組み、各部署が運転方法や流量調整などで協力すれば、調査可能になる場所はまだあると思います。

 新技術を開発することはもちろん重要です。しかし、それと同時に、「何としても状態を把握する」という管理者としての意思も必要です。「協議が大変だから」「費用がかかるから」と先送りしている間にも、管路の老朽化は進みます。事故が起きてから対応する方が、はるかに大きな費用と社会的影響を伴うことを忘れてはならないと思います。


「見えない下水道」を見える化する――技術から社会へ

 下水道管をはじめ、地下にあるインフラは市民の目には見えません。自分たちのまちの下水道管が今どのような状態にあるのか。このまま十分な維持管理や更新をしなければ、10年後、20年後にどうなるのか。そのリスクは、議会や住民になかなか伝わりません。だからこそ、維持管理や更新に必要な予算についても理解を得にくい面があります。

 管内には油脂が付着し、異物が入り、木根も侵入します。劣化や異状を放置すれば、道路陥没や管きょの閉塞、それに伴う下水の溢水など、さまざまな事故につながります。今後は、管路の状態をデータとして「見える化」するだけでは十分ではありません。その情報を使って、なぜ今、点検や修繕、改築が必要なのかを社会に「見える化」することが重要です。

管内検査カメラシステム「ロビオン」

 国の第3次提言でも、管理者や担い手のための「テクニカルな見える化」と、インフラ老朽化を市民に自分事として捉えてもらうための「市民への見える化」が打ち出されています。これからは、行政と事業者だけで下水道を維持していく時代ではありません。地域住民にも下水道の役割や現状を知ってもらい、施設を将来にわたって維持・更新していくには、下水道使用料を含めた安定的な財源が必要であることを理解してもらう必要があります。

 50年間、管内調査技術は「見えない管の中を見る」ために進化してきました。これから求められる「見える化」は、その先にあります。管内の異状を見つける。リスクの高い場所を見極める。必要な場所を確実に直す。そして、その必要性を社会にも見える形で伝える。技術とマネジメント、そして市民の理解までを一つにつなげることが、これからの管路管理には求められているのだと思います。


記者の視点

 白黒カメラをワイヤーで引っ張り、1スパンの管路を見るのに2時間近く要する。映像記録はリールのビデオテープ、報告書は手書きと現像写真――。飯島氏が振り返る黎明期の話から、現在に至るまでの管内調査がどれほど大きな進歩を遂げたかが実感できた。

 しかし、印象に残ったのは新技術そのもの以上に、「調べられない場所を、できないで終わらせてよいのか」「人が入れない調査困難箇所で異状を見つけた後、どのように直すのか」という現状の技術・工法への問いかけだった。真に下水道管路のリスクを見極め、修繕・改築につなげるためには、技術革新が今後もまだまだ必要になる。

 必要なのは、「見えないところを見たい」という意思であり、そして、そこで「見た」「診た」管路の修繕・改築の必要性を「見える化」して市民にも伝えなければ、持続的な管路の維持管理は成り立たない。

 管の中を「見る」ために始まった技術の50年。今、「見る」べき人は、関係者から社会全体へと広がり始めている。

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Profile

1962年(昭和37年)管清工業株式会社は誕生しました。

以来、約60年にわたり、一貫して「管」(パイプ)の維持・管理を行い、日本の下水道インフラを支えてまいりました。

下水道の管路網を専門的に管理、清掃することが当社の社名=管清工業の由来となっています。まさに「名は体を表わす」という言葉を自負しています。

創業以来、ずっと変わることのない思いは、「市場は自分で作り同業他社と共に開拓していく」こと―――。社員は1から2を生むのではなく、0(ゼロ)から1を生むことに力を注いでいます。創造し、多様なインフラの価値を創り出してきたのです。

下水道は今や、この現代社会では欠かせない存在となりました。例えば、震災時にトイレが使えなくなると途端に不自由な生活を強いられます。また、下水はウイルス発生の予兆を知る事が出来ると言われています。現代に生きる我々には、もはや当たり前の存在とし、流れを止めることの出来ない重要なインフラと位置づけられているのです。

さらに、私たちはこの下水道を通じ環境教育の一環として、全国の学校に訪問し下水道の「出前授業」を通した啓発活動を行っています。子供たちに、美しい環境を残していくことが我々の大きな役割だと考えています。そして、その使命を胸に、日本全国でより良い生活環境を創出するために、管清工業株式会社は24時間365日稼働し、常に社会基盤を支えているのです。

美しい地球のために―――我々と一緒に、未来の地球環境を創り上げていきませんか。

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