トヨタ生産方式を導入
清水合金製作所は、滋賀県彦根市で1947年に創業した老舗水道機器企業だ。創業時は「清水合金鋳造所」としてバルブ部材の一つである仕切弁部に当たる青銅部品の鋳造を軸とした事業展開を図っていたが、創業10年目を迎えた1957年に、仕切弁本体加工を手掛ける機械工場を新設。水道バルブメーカーを志向し、〝名は体を表す〟のごとく商号も現社名に改称した。
その後、日本水道協会指定検査工場と日本工業規格表示工場の許可認定を取得する一方で、今や水道バルブの主となっているソフトシール仕切弁をドイツから輸入し、他社に先駆けて日本仕様に改良、「技術の合金」を彦根の地でコツコツと磨いてきた。
そして1995年8月、地場産業であるバルブ企業の一つに過ぎなかった同社に大きな転機が訪れる。産業バルブ国内最大手であるキッツグループへの参画だ。生産管理から製品開発、営業戦略、人事制度に至るまで洗練された技能を軸とした徹底的な経営改善が図られ、今や国内トップの生産台数を誇る。水道バルブ分野において生産台数、製品ラインナップは業界トップだ。
中でも注力したのが製造部門と営業部門の改革だった。製造部門については、多品種少量生産を実現しつつ、受注から納品まで各工程における遅滞・無駄を徹底的に排除した高度な生産ラインを構築。バルブ製品は自治体ごとに仕様や寸法が異なり、また発注時期も千差万別で、在庫を大量に抱えるリスクがある同一製品の大量生産をしにくい。その中で多様化するニーズに対応する多品種少量生産の実現は経営改善に大きく貢献している。
同社の生産ラインは、日本が誇る世界的自動車メーカーであるトヨタ自動車の生産方式を基礎とし、NPS研究会から学んだものであった。NPS研究会は、「モノづくり」の思想と技術を後世の日本に残すことを目的とした〝1業種1社〟を原則とした業際集団。トヨタ生産方式の生みの親である元トヨタ自動車工業副社長の大野耐一氏や、その現場を指揮した鈴村喜久男氏など多くのトヨタ関係者が指導者となり、あらゆる無駄を排除することによって経営効率の向上を図ることを基本思想としている。
キッツが会員であったことから、同社もNPS研究会に入会。トヨタ生産システムであるかんばん方式やジャスト・イン・タイムを源流とし、市場環境の変化にも柔軟・迅速に対応して最も効率よくモノづくりを推進するマネジメント手法(NPS=New Production System)を構築した。マーケット・インの発想で、必要とするモノを必要なところで必要なタイミングで生産し商品を供給すること、売れる数とタイミングを見ての生産方法を切磋琢磨して追及している。
開発投資においても積極的だ。もともとドイツのボップ&ロイター社と技術提携し、国内でいち早くソフトシール仕切弁の生産販売に着手したパイオニアだけに、新技術に対する企業マインドは高い。全国に張り巡らされた営業網から得られた地域の課題をヒントに、毎年、新製品(改良型含む)を市場に送り出し、新たな市場を創造している。
営業部門については、顧客満足度の向上へコミュニケーションの充実を図るため、北は北海道から南は九州まで全国9拠点に営業網を整備。バルブ資材の供給はもとより、納入後のアフターケアにも経営資源を投入した。さらに、製造部門と綿密な連携で緊急時においても迅速にバルブ供給が可能な流通体制を構築し、ぞれぞれの地域が抱える課題に各営業拠点の社員が一緒になって取り組んできた。