老舗バルブメーカーが水処理ビジネスに参入
人々に安定的かつ適正な量の水を送り届けるために必要不可欠な水道バルブ。清水合金製作所は、この水輸送のコントロールを担う水道バルブの市場で年間総生産台数の約3割を占めるトップ企業だ。同社が本社を構える滋賀県彦根市は、上下水道用、産業用、船用向けのバルブを製造する約30社とそれを支える関連企業が生産・供給拠点を構えるバルブのメッカだ。この地域で作られるバルブは「彦根バルブ」としてブランド化されている。
この地で1947年の創業から77年の長きにわたり水道バルブの製造・供給にこだわり続け、「水の制御」の分野で、水道という人々の生活に不可欠なインフラストラクチャーを支えてきた。この老舗水道バルブメーカーが、新たな領域へ「人」「モノ」「カネ」の経営資源を注入している。
新領域とは、安全な飲料水を生成する浄水設備を手掛ける水処理事業だ。顧客との対話を重視していたバルブ事業を展開する中で、小規模集落の持続に悩む自治体の苦悩を目の当たりにして、何とか企業貢献ができないかという社員の一言をきっかけに、2002年本格的に事業化に至ったのであった。しかしながら、バルブメーカーゆえに門外漢の水処理技術に対する知識もノウハウも乏しく、苦難の道を歩んでいた。
元々、バルブ業界最大手のキッツグループの一員であり、キッツが有していた産業用水処理システムを応用して飲料水用に展開していく事業戦略を持っていたが、飲用水システムの開発となれば、安全性や衛生性など求められる水準が高く、事業化には相当な時間が必要であることは否めなかった。
水処理分野に本格参入したのは、2002年。当時、問題となっていたクリプトスポリジウム対策として、小規模浄水場向けの膜ろ過装置の開発に着手したのが出発点であった。浄水場における膜ろ過法の普及が進んでいた時期でもあったことから、比較的膜モジュールが安価に入手できたことも大きな要因となった。
装置のコアとなる膜モジュールは、キッツのマイクロフィルターと大手メーカー製の2本立てで開発。当時はゼロからのスタートゆえに、技術的にも試行錯誤が続く一方で、「清水合金製作所=水道バルブメーカー」のイメージが強く、営業サイドもどうしても主力であるバルブ営業を優先せざる得なく、小型浄水装置への認知度はなかなか向上していかなかった。