令和6年3月「水道配水用ポリエチレン管の耐震設計の手引き」改定版を発刊
改定にあたって
水道配水用ポリエチレン管(通称青ポリ管)は、「水道施設耐震工法指針・解説(2009年版)」における埋設管路の耐震計算法において、その定量的検証が未整備であるが故に参考扱いとなっていた。そこで配水用ポリエチレンパイプシステム協会(POLITEC)では、事務局が中心となって、学識経験者、水道事業体、設計施工事業者から成る委員会を立ち上げて定量的な性能の検証を行い、その成果をまとめたものを2018 年に「水道配水用ポリエチレン管の耐震設計の手引き」として刊行した。
2022 年版の「水道施設耐震工法指針・解説」では、➀前回改定(2009)以降に発生した地震からの教訓を生かす、➁最新の知見と技術を取り込む、➂より分かりやすく使いやすい指針とする、➃性能規定型設計化を徹底する、➄設計事例集を充実させる、➅危機耐性について記述する、の6 つを骨子とする基本方針に則った改定が行われたが、その中で、水道配水用ポリエチレン管は、従来の参考扱いから耐震管としての新たな地位を得ることになった。
一方、水道配水用ポリエチレン管は金属管に比べて後発の管路であるが故、これまでの「水道施設耐震工法指針・解説」に記載されている事項に対して、金属管とは異なるポリエチレン管特有の管路特性や材料特性に基づく独自の考え方を明示する必要が生じてきた。ここに、本改定の大きな理由が存在する。
このような背景に鑑み、本手引きは、以下の3 つの点に絞った改定を行った。
(1)地中埋設された水道配水用ポリエチレン管に対し、常時荷重により発生するひずみの算定法を明らかにするとともに実務者向けに計算事例を明示すること。
(2)水道配水用ポリエチレン管の高い変形性能を踏まえた照査用限界ひずみ(許容ひずみ)を見直すこと。
(3)地盤変位に対して水道配水用ポリエチレン管の高い変形性能を踏まえた耐震設計法を明らかにするとともに実務者向けに計算事例を提示すること。
上記は、水道配水用ポリエチレン管の金属管とは異なる材料特性と高い変形性能を十分に勘案し、周辺地盤の影響を取り入れた独自の常時荷重算定法の提案や、レベル2 地震動においても日本水道協会の水道施設耐震工法指針・解説(2022 年版)で定める「使用性」を確保できる照査用限界ひずみの設定、および地盤変位に対する具体的な設計法の提案と地盤変位吸収能力に基づく定量評価法を明示したものである。
このように、現在の設計体系の潮流である性能設計を念頭に、レベル2 地震動に十分に対応できる耐震性能と、地盤変状に対する変形性能を定量的に示すことで、水道配水用ポリエチレン管の安全性を再確認し、もって中小口径水道管の更なる耐震化推進に貢献することを目的として改定を行った。
また、2024 年1 月1 日に発生した能登半島地震では被災地へのアクセス道路の寸断は元より、上下水道を始めとするライフラインの復旧の遅れとその重要性が再認識されている。地震発生から1 ヶ月経った2024 年1 月末時点においても被害箇所の特定などその全体像すら明らかになっていないが、特に水道管の耐震性の向上が必須であることは論を俟たない。
本手引きの改定に関わっていただいた委員各位および水道事業者・関係者各位にこの場を借りて厚く御礼申し上げるとともに、本改定手引きが今後とも水道業界を支える多くの方々の貴重な意見を取り入れながらさらに新たな形へと飛躍を遂げ、水道管路の耐震性向上に大きく貢献していくことを切に願う。
水道配水用ポリエチレン管の耐震性評価検討委員会
委員長 京都大学 名誉教授 清野純史